発表会

思い思いに音楽を奏でるアマチュアの方々の演奏には、いつもハッとさせられる発見があります。無垢な心でひたむきに弾く子どもの姿。歳を重ねてから新たなチャレンジとして鍵盤に向かうご婦人。演奏を仕事にした時に失い始めたものを、彼らが完璧な形で保っていることにほんのりとした黄昏を感じつつ、それぞれの熱演を見守るひととき。ピアノとエレクトーンの教室を営む先生が主催する発表会を手伝うため、名古屋を訪ねました。

この発表会ではゲスト奏者として招かれただけでなく、司会進行もお任せいただきました。事前に参加者のプロフィールは受け取っていましたが、当日に初対面ですと素人司会の私では血の通ったご紹介ができませんので、前日に時間を取っていただき、全員にお会いしてインタビューをしながら、演奏もお聞きすることにしました。

その先生の教室には初めてお伺いしたのですが、扉を開けたとたんに懐かしいなと感じました。私が子どもの頃に通っていた音楽教室に雰囲気がとてもよく似ていたのです。インテリアやレイアウトは大きく違うのですが、通っている皆さんがこの部屋を気に入って心地よく思っていることがよくわかり、レッスンに通うことが楽しくて仕方がなかったあの頃の思い出で胸がいっぱいになりました。

やがて出演者の皆さんが集まり始め、教室はますます懐かしい記憶と重なっていきます。あれから45年。私はプロの演奏家になりましたが、教室で友だちになった仲間の演奏を聞き応援していた日々の気持ちそのものに戻っていました。

全員の演奏を聞き、いくつか質問などさせてもらい、5時間の前日リハーサルはお開きに。先生に名物のひつまぶしをご馳走になりながら、本番に向けての打ち合わせを詰めていきます。ホテルに入ってからは、インタビューした情報をまとめ、司会の資料を作りました。顔と名前は一致するようになりましたが、記憶が衰えた今となっては、万が一間違えでもしたら一大事ですので、資料で確認しながら進めることに。我にかえればやっぱり黄昏気分です。

いよいよ当日。会場となるヤマハホールはホテルの目の前。本番の支度を済ませて身軽にホール入りしました。ヤマハの最高級ピアノとエレクトーンが並んだステージは、すでに準備が整い、演奏されるのを待ち構えています。出演者も揃い、予定通りに全体リハーサルをスタート。あらかじめ本番同様の体験をすることで、振る舞いへの不安が減り、演奏への集中力が高まります。

そして友だちや家族を迎えて発表会本番が始まりました。緊張がまったくないはずはありませんが、前日リハーサルと直前リハーサルを経て、本番が一番リラックスして弾いていたように思います。堂々としていて、誠実さの滲む演奏に、会場からは惜しみない拍手が響いていました。

全員の演奏が終わり、今度は私の番。ゲストという特別な立場ではなく、同じ出演者という気持ちでもあり、説得力のある演奏をお届けしたいという緊張もありましたが、司会の大役から解き放たれ、しなやかに弾くことができました。

最後に集合写真を撮っていただき、すっかり素顔に戻った出演者の皆さん。自分の演奏を頑張りながら、仲間にも声を掛けて支え合う姿も見られ、とても気持ちのいい発表会でした。サプライズで皆さんからいただいたお手紙は、我が家の家宝です。

また、今回は大阪から菊池玲那もサポートに駆けつけてくれました。細かい指示を出さずとも、その場の空気で必要なことを自分で判断して動いてくれるので、非常に助かりました。自身の演奏会も控え余裕がない中でも、音楽会への貢献や奉仕を忘れない人材に育っていることを誇らしく思います。身内贔屓ですがご勘弁ください。