振り幅最大の七変化

5回目の豊洲無限大は津軽三味線の浅野祥さんをお招きしました。せんくらと霧島で磨きをかけ、満を持しての東京。実にいい公演になったと思います。

エレクトーンソロだけでも謎だらけなのに、プラス三味線となれば、もう説明は不可能なので、実際に聞いていただくしかありません。ですから、ご来場のお客様は相当の好奇心と想像力をお持ちだと言えますし、すなわちクリエイターに匹敵する感性の方々が客席に揃ったというわけです。

それは弾き手にとってはまたとない環境でして、ハンドルを持っていかれそうになることもなければ、妙な摩擦を感じることもなく、すべてのエネルギーが一切無駄なく音楽に変換されていきました。

会場には浅野祥さんファンが多くご来場でしたが、皆さまの順応性にも驚かされました。神田プロデュース公演はけれんがなく、いわゆる盛り上がりポイントもあえて設けませんし、ペンライトを振ったり手拍子をする愉しみすら提供せず、ひたすら音楽にだけ酔ってくださいという流れを貫いていくのですが、それにぴったりと寄り添ってお付き合いくださいました。

お客様もお見事なら、浅野さんもです。公演というのはエネルギーの配分が非常に大切で、そのコツを掴むには百戦錬磨の経験が必要です。浅野さんの若さなら、有り余る体力に乗じ、エネルギーレベルの高いステージ作りをしそうなところですが、たいへんバランスがよく、ピークを効果的に見据えた構成をしていました。

例えばせんくらですと1公演が45分ですので、早い段階でフルパワーに達するように持っていきますが、首都での2時間公演を洗練されたかたちでまとめようと思えば、抑制との戦いに勝利しなければなりません。あの若さでそれができるのですから、たいしたものです。

まるでエレキギターを掻き鳴らすような大胆さを見せたかと思えば、そっと目を閉じて弱音を奏でたり、心の底から声を出したり。やはり圧巻はソロの時の霊的なまでの空気感。振り幅最大の七変化と前宣伝しましたが、まさにその通りでした。豊洲を終え、すでにスペインへと旅立った浅野さん。今後の活躍からますます目が離せません。