いのちの電話

つらいとき、いつでも相談員が電話で話を聞いてくれるいのちの電話。その存在は広く知られていますが、どのように運営されているのか、どんな人が相談に乗ってくれるのかなど、私は具体的なことをほとんど知らずにいました。それが今日、縁あって群馬いのちの電話開局20周年の記念式典と祝賀会に招かれ、演奏を披露して来ました。

サブタイトルは「こころを聴いて20年」。その言葉に自分の20年を重ねてみました。その間、私も音楽を支えとして音楽から生きる力を得たり、聞いてくれた人々にささやかな力をお届けして来ました。

今日集まったのは100名を超える相談員と、いのちの電話を支える支援者の方々。聞けば、相談員は厳しい研修と試験を経て資格を取り、厳格な守秘義務中で電話相談に当たっているのだそうです。相談員になってからも、資格更新審査があるのだとか。そして、それらの努力と一切の費用は本人負担、かつ相談は無報酬だというのですから、相談員の皆さんの本気度は半端ではありません。

こうした相談員の方々は、電話を掛けてくる人の命にまで踏み込んで相談に乗り、20年の間に数え切れないほどの人生に力を与えたことでしょう。それを思うと、私の音楽などまだまだちっぽけなものに思え、おかげで一層やる気に火が付きました。

私の演奏は、祝賀会に入り、食事が始まってからのことでした。当初、食事中の演奏には強い抵抗があり、どうなることかと気をもんでいたのです。過去を振り返れば、食事中の演奏で非常に苦い思い出もあります。

紹介されてステージに上がった時には、歓談の盛り上がりがピークに達した頃合いでした。これはまずいと思いつつも、覚悟を決めるしかありません。

ところが、演奏が始まるやいなや、全員が音楽の旅に参加してくれたのです。私はいつもより頻繁に目を閉じ、心にある風景を音にすることに勤しみました。相談員の皆さんも、日頃、目には見えない人と心を向き合わせているので、それに倣ってみたというわけです。

きっと今日の方々は、私の見た目の印象よりも心を感じてくれるに違いないという直感は正解でした。宴会場はたちまちコンサートホールに変わり、与えられた時間いっぱいまで、皆さんと一緒に音楽を共有することができました。

電話でとはいえ、人の重い悩みを受け止めるのは楽なことではありません。そんな相談員の方々が、今日の音楽で少しでも解きほぐされ、そのパワーをもとに、また明日から人々を勇気づけてくれれば、それが私にとって最高の歓びです。

明日は安中文化センターでの演奏会。待ちに待った大山亜紀子さんとの初共演です。