仙台クラシックフェスティバル2012 最終日

3日間に渡り幾多の熱演が繰り広げられた仙台クラシックフェスティバル。始まったばかりだと思えば、もう最終日です。4年間参加して、これまでずっとソロ演奏を務めて来ましたが、やっと念願かなってアンサンブルが実現。特別な気持ちで臨みました。

昨日までのエル・パークギャラリーホールから場所を移して、青年文化センターの交流ホールへ。こちらは演奏会場が4か所あるので、各楽屋には大物演奏家が控えています。憧れの演奏家と同じ空間にいるだけで、なんだか嬉しくなります。

米津さんと一緒にホテルを出発し、午前中のうちに会場入りしたのですが、米津さんはピアノ練習室でひとり稽古。ピアニストにはピアノ練習室が用意されますし、ヴァイオリニストなどは自分の楽器で稽古ができますが、エレクトーンは会場にしかないので弾けません。かといって気分的にじっとしていられないので、楽譜を読みながら指を動かして感覚を呼び覚まします。

会場入りの時間になり、早速ステージをチェック。すでにエレクトーンはスタンバイされ、ピアノの調律も仕上がっていました。そこに米津さんも登場。まずは軽く一度合わせてみることに。

今回、東北大学エレクトーンサークルMUSICAのメンバーを代表して、若い女性が譜めくりをしてくれることに。その子もエレクトーンを弾けるので、私の代わりに出だしを弾いてもらい、客席でバランスを確認しました。なかなかいい感じです。

今度は、私がピアノを弾き、その子がエレクトーンを弾いて、米津さんが客席でチェック。これで互いにだいたいのバランスが把握できました。続いて、全楽章を通して演奏。初回は探り合いのような部分があったものの、それぞれに本番に向けての注意点を心に刻んでいきます。

私も一通り弾き慣らして置きたいところですが、コンチェルトですから米津さんがピアノに慣れることの方が重要です。米津さんは、この日のために運ばれたYAMAHAフルコンサートピアノの感触を丁寧に確かめていました。

米津さんが慣れて来たところで、私も少々確認の時間をもらった後、改めて全曲通し演奏。これがまた素晴らしい出来栄えでした。本番もこんな感じに弾けたらいいねと言いながらリハーサルアップ。楽屋に戻って衣装に着替えます。

満席のお客様に迎えられた本番。まずは私が先に登場し、ふたりきりでのコンチェルトに向けた思いや、聞きどころなどを解説。そして米津さんを招き入れ、いよいよ演奏のスタートです。

荘厳な前奏から、大波のうねりのような主題に入り、音楽はさまざまに変化しながら展開していきます。米津さんには、とにかくその時の思いのままに弾いて欲しいと伝えてありました。あらかじめの決めごとにとらわれず、刻々と変化する感覚で本能的な演奏を期待しています。

これがオーケストラとの共演だと、これほどぴったりと寄り添って弾くことは困難だと思います。私の役割はオーケストラパートの演奏だけでなく、米津さんの音楽を引き出すことにも重点を置いています。なので、自分の演奏よりも、ピアノの方に神経の大半を注いでいました。

第1楽章が終わり、静寂を作ってから第2楽章へ。ラフマニノフならではの生と死の境界を垣間見るような、深遠な世界を表現したいと思いつつ。時空を超越したかのようなピアノの後奏は、格別の美しさでした。

第3楽章の序奏までの間、美しい無の中を漂いながらも、全楽章の連続性を損ねないよう、弾き始めのタイミングを見計らいます。スリリングな掛け合いを通りぬけ、クライマックスに差し掛かる頃には、この時間が永遠に続けばいいのにと祈るような気持ちに。最後は弾く歓びを全身で感じていました。

お客様も本当に素晴らしかったです。同じ空間で同じ音楽に触れながら、同じ呼吸をしているという感覚。客席の照明が点いても鳴りやまない拍手には、私たち演奏する側がエネルギーをもらいました。終演後もしばらく席を立たずにいたお客様も多かったと聞きました。

せんくらの最終日を爽快な気分で締めくくることができ、幸せでいっぱいです。9月はこのせんくら以外にも、カルメンがあったり、弟子のコンクールがあったりと、いくら時間があっても足りない日々でした。この1週間で10キロ近く痩せましたが、逆に気持ちは満タンです。ありがとうございました。