神田将とその門下による小さな演奏会

神田将門下7名とその仲間たち計10名、そして私も少々加わってお届けした「小さな演奏会」は、ご来場の皆さまに温かく見守られながら、盛会のうちに終えることができました。応援して下さった皆さまに深く感謝いたします。

晴天に恵まれた東京。渋谷にあるエレクトーンシティでは、朝10時より演奏会の準備が始まりました。ステージへの楽器セッティングは金曜日のうちに終えてあり、今朝は照明や音響の仕込みからスタート。

その間、少しでも楽器に触れていたい門下たちは、個人用スタジオを使って稽古を進めます。ギリギリまで努力を重ねるのはよい心掛けですが、あまり消耗してしまうと本番の精度がぼやけるので、ほどほどにさせなくてはなりません。

私はスタジオを回って一通りの演奏を聞きますが、この場で細かいダメ出しをしても、全体のバランスを崩すだけになりかねないため、気持ちを楽に持てるよう、そして本番に向けてのモチベーションが高まるよう、鼓舞します。

11時30分よりランスルードレスリハーサル。本番の衣装を付けて、本番通りの進行で行うリハーサルです。ここで音響や照明の最終確認をしながら、各出演者にも、一言ずつアドバイスをします。

何も言うことなしとすれば、逆に気持ちが揺れることもありますが、ちょっとしたポイントをアドバイスすれば、集中力を保つきっかけになります。

あっという間に開場時間。それでも各出演者たちは、まだ楽器に触れていたいらしく、かわるがわるスタジオに。腹をくくるということもそろそろ教えないといけないと思いました。

演奏会は定刻通りに始まりました。私のリサイタルと同じ照明・音響チームが、演奏曲にふさわしい雰囲気と環境を整えていますので、気分よく弾けるはず。でも、なかなか緊張に打ち克つのはたいへんです。

トップは渡部亜由美と阿久津悦によるアンサンブルで神様のカルテ。ゆったりとした癒し系音楽からスタート。今日の演奏会タイトルにぴったりなテイストです。

次は高校教師・松信亘が演奏する風の谷のナウシカ「鳥の人」、新世紀エヴァンゲリオン。男らしく切れ味のある演奏です。もうちょっと繊細さが加われば、恋もうまくいくだろうに。

続いて高校生・入谷早紀によるパイレーツオブカリビアン「命の泉」。この日のために自身で編曲。パワフルで歯切れのいい演奏に会場も盛り上がって来ました。

姉の入谷麻友は運命の力を。数百曲ある私のコンサートレパートリーの中でも、最もリスクの高い作品のひとつに果敢にチャレンジしました。

渡部亜由美のソロはサムソンとデリラより「あなたの声に私の心はひらく」。繊細で美しいメロディーを歌いあげるには、客観的に聞いて感じるよりもはるかに高度な技術と精神力が必要ですが、よく抑制しながら弾けていたと思います。

高校生3人目の菊池玲那は大阪から参加。幻想曲アフリカと自作曲のプーリアの青い空を演奏しました。いずれもまだ見ぬ土地への憧れが込められ、旅の風景が浮かんでくるかのよう。空間の取り方もなかなか堂に入ったものです。

続いてはガラリと雰囲気を変えて、種村敬子トリオによるジャズ演奏。種村敬子は私の共演者も務めるプロの演奏家です。今日はあえてエレクトーンではなくピアノを弾いてもらいました。

曲はミシェル・ペトルチアーニへのオマージュとしてLOOKING UP、そしてブルーノ・マルティーノのESTATE。美味しい酒を飲みながら、人生を語り合いたくなるような雰囲気。時に心地よく軽やかに、時にけだるく、そして時に熱く。ドラムスは藤田正則、ベースは宮川国夫。

一気にくつろいだ空気となったステージで、クラシックのエレクトーンソロを弾くのは楽ではありません。下手をすれば雰囲気を壊してしまいます。そこを見事に展開してくれたのは我らが映像部長・星野隆行。交響詩「禿山の一夜」を緊張感たっぷりに弾き切りました。

今回のトリを務めるのは入谷姉妹。他人でここまで息を合わせようと思ったら、相当の合わせ稽古をするか、もしくは指揮者が必要ですが、さすが姉妹、見事に一体となった演奏です。

曲は眠れる森の美女より「序奏・リラの精・ワルツ」。この世のものではない美しい世界を、立派に表現してくれました。

こうして全員の演奏を振り返ってみると、確かに緊張に負けた部分もありましたし、気負いすぎて傷になったところもあります。反省点は本人が一番よくわかっているでしょうから、あえて細かいことは言いません。

私が今回の演奏会で門下たちに感じて欲しかったのは、人前で弾くことの価値と心地よさです。他人を気にして腕自慢に陥ることなく、自分の選んだ作品に敬意を払い、その作品の素晴らしさをお客様と共有することを目指すよう指導してきました。

それを実現するには、多くのことに打ち克ち、自分を完ぺきにコントロールしなければならないことを、身を持って知ったことでしょう。

この演奏会はゴールではなく、スタート地点です。今日の経験が明日の自分を導き、更に深い音楽へといざなってくれるに違いありません。

お客様には最後までお付き合い頂き、惜しみない拍手を頂戴しました。それは出演者にとって身震いするような歓びだったはずです。またの機会には、より成長した姿をご覧頂けるよう、努力を重ねて参りますので、どうぞよろしくお願いします。

最後は私の演奏を少々。一日中、門下のサポートに奔走し、本番中は手に汗握っていましたが、私も楽器に向かえばいつまででも弾きたくなってしまいます。