パンの味から感じるホテルの品格

パンの味が落ちたな・・・。最近、あちこちのホテルで実感することです。ホテルの良し悪しは朝食に表れると言われますが、確かにそうかもしれません。

かつて、ホテルのレストランといえば高品質の象徴であり、安心して美味しいものが食べられる聖域でした。それも時代とともに変化し、ホテルレストランのファミレス化は今も進み続けています。

その背景にはシビアなコストダウンの他に、客層の多様化、すなわち味覚の多様化による影響もあります。特に、コンビニやチェーン店の味に慣れている世代にとっては、高価な素材を使って丁寧に創り出される味わいよりも、安くて均一の味の方がよいのかもしれません。

ホテルのパンは、職人が朝も暗いうちから作業にかかるものと相場が決まっていましたが、最近は焼き上げるだけで完成という冷凍生地の規格品が多くなりました。

安いホテルならそれでも構いませんが、ラグジュアリーホテルでさえもそうした品を使いだしたのには驚きです。無料で付いてくるビジネスホテルの朝食と、ひとり四千円近くも取る高級ホテルの朝食が同じ品質だなんてどうかしています。

逆に、美味しいパンを出してくれるホテルには、一層の敬意をはらいたくなります。時代の風潮に流されることなく、高級ホテルのプライドを守っているところは、他の面でもひときわ輝いています。

それと共通する話題ですが、今朝、馴染みのホテルでフレンチトーストを注文した時のこと。マネジャーが出来立てを運んでくれたのですが、一口食べてみて、どうも納得がいきませんでした。

いつもより少々冷たい感じはしましたが、これといってどこがダメというわけではありません。なのに、あれ?いつもこんな味だったかな?と疑問に思うのです。

運んで来たマネジャーに率直なことを言うと、厨房に行って作り手から話を聞いて来てくれました。それによれば、「いつも通り、教えられた通りに作った」とのこと。その料理人は、まだ経験の浅い若い女性だそうです。

なるほど。教えられた通り、つまり決められたレシピに従って作ったわけですね。音楽に例えれば、楽譜通りに弾きましたというのと同じです。

ひとり四千円近い朝食に求めるものは、レシピ通りではなく、卓越した本物の味わいです。ホテルもそれを提供する心意気を忘れないで欲しいものです。