フレンチレストラン L’Alliance ラリアンス 神楽坂 リストが贈る夜

食と音楽のマリアージュ。私自身もそれをお届けする側として各地で企画や演奏に長年携わっていますが、今回はひとりのゲストとして、食と音楽の織りなす世界を楽しんで来ました。

店はこの11月でちょうど8周年を迎える神楽坂のフレンチレストラン「L’Alliance ラリアンス」。ピアノ演奏は今川裕代さん。店を訪ねるのも今川さんのピアノを聴くのも初めてなので、期待に胸が膨らみます。

金曜の夜、神楽坂の狭い通りは夜の街に繰り出す人々や、車の列でごった返していて、なんだかここだけは景気がよかった時代の活気を残しているかのよう。人々の足取りや冷たい空気からは、クリスマスが近いことが感じられます。

そんな通りの一角に、大きくて立派な扉があります。となりはゲームセンターですので、一見して別世界への入口だと感じさせるコントラストがまたユニーク。

そして、扉を入れば、瞬時に静寂が訪れ、異次元への境界線をまたいだ気分。エントランスからは2階のレセプションまで、まっすぐにエスカレータがのびており、ダイナミックな空間の使い方に心が奪われます。

受付を済ますと、係が一組ごとにエスコートしながら、まずはウェイティングバーへと案内。ウェルカムドリンクとしてオーストリアの葡萄ジュースとジャスミンティを使ったノンアルコールカクテルが振舞われました。

今回は先に演奏会があり、その後で食事を楽しむという流れ。ピアノの演奏会はバーの隣にあるチャペルにもなりそうな落ち着いた空間が使われ、控え目な照明の中、木目のピアノが静かに演奏家を待っています。

店からの挨拶の後、ピアニストの今川裕代さんが拍手で迎えられました。途中トークを交えながら、リスト、シューマン、ショパンの名曲を1時間ほど披露。中でもシューベルトの歌曲を基にリストが編曲した2作品が際立って心に残りました。

演奏会の後はいよいよ食事。演奏会場からウェイティングバーを抜け、ダイニングへと続くドラマチックな大階段を下り、各テーブルへと向かいます。

とにかくこの店は空間の使い方がユニークで、街場の店とは思えないスケール感に溢れています。聞けば、かつてはDISCOだったとか。21世紀に入ってもDISCOなるものが現存していたことには驚きましたが、空間としては納得です。

ダイニングのテーブルはとてもゆったりと配置されており、すぐ隣のテーブルでさえ、何を話しているのかまったく耳に入らないほどゆとりがあります。丸いテーブルや籐椅子を使い、リゾートのような安らぎです。

店の8周年記念を兼ねたエグゼクティブシェフ渾身のディナーはアミューズからデセールまで7皿のコース。シェフ自らがマイクをにぎり、料理コンセプトを説明してくれました。

まずはアミューズ。瀬戸内産 車海老と蓮根のフリチュール 和出し汁のタルタルソースと “スダチ” のアクセント。最初に強烈な和のインスピレーションが来るとは粋なもの。料理が黒漆を背景にした蒔絵のようではありませんか。しかも3D。

冷製オードブルは、青森産 中とろまぐろと有機ジャガイモのガトー 甘味豊かな帆立貝のジュカプチーノソースで。素材がいくつか合わさって、何ともいえない深い甘味が生まれます。

温製オードブルは、北海道産 真鱈白子のまろやかなムニエルに有機蕪のブレゼを添えて セップ茸の風味あふれるスープを注いで。蕪のブレゼには和の技法が。セップのコンソメは実にリッチな香りです。

パンは3種類が用意され、そのうちトロワグロでもお馴染みのキューブブリオッシュと紅麹を織り込んだソフトなパンを選びました。

魚料理は、函館産 鮟鱇ロティとカボチャのアンサンブル ペリフェリの辛味とボルドー赤ワインソースの共演。これがメインディッシュでもいいと思うくらい、存在感のある魚料理でした。

紅茶のグラニテで口直し。

メインディッシュは、オーストラリア産 シャロレー種 仔牛フィレ肉の香ばしいパイ包み焼きにトリュフとコクを利かせたペリグーソースのデュエット。最後はクラシカルな料理をどんと持って来てくれました。

やっぱり私はこういう味が好き。特に秋や冬にはたまりません。ソムリエが合わせてくれたエスターハージーのメルローともバッチリです。そしてもう一皿、サイドディッシュ的にリード・ヴォー。

結構な皿数と分量を食べているのに、腹に重たくないのは、巧みな流れと幅広い調理法による魔法でしょうか。前菜はあくまで軽やかに繊細に。魚と肉は力強さが加わり、変化に富んだ味わいとバランスが楽しめました。

アヴァンデセールは、シャンパンのジュレとグラス。薔薇の花びらがにくい演出です。

デセールは、紅玉リンゴの温かいミルフィユに蜂蜜のグラスを注いで シナモンの軽い香りと共に。カルバドス風味のカスタードがアクセントに。幸せの甘いハーモニーです。

食後はコーヒーとともに小菓子。パティシェがひとつひとつ丁寧にこしらえた食べられる小さな宝石たち。

ピアノの美しい余韻とともに、のんびりゆっくり食事と会話を楽しみ、気がつけば23時。あっという間の5時間でした。やっぱり、音楽と食の相乗効果は絶大です。