エレクトーン演奏のタッチ感

全身を使ったダイナミックな演奏が魅力のエレクトーン。ピアノとエレクトーンは同じ鍵盤楽器ですが、その奏法はまったく異なります。では、具体的にどんな違いがあるのでしょうか。

かつては、「エレクトーンを極めるならピアノをきちんと弾いた方がいい」と言われており、私もそれに共感していました。

エレクトーンの鍵盤は軽いので、ピアノのようにタッチを極めなくても問題ないかのように見られていた時期もあります。

確かに昔のエレクトーンは、誰が弾いてもタッチによる音の変化はありませんでした。鍵盤がほぼ音のオン・オフの情報しか感知できなかったからです。

しかし、今やエレクトーンの鍵盤は他に類を見ない繊細なタッチセンサーにより、微妙な音の変化まで自在にコントロールできるようになりました。

一方、この極めて繊細なタッチセンサーを操るには、相当の熟練を要するようになり、あえてその機能をオフにして楽しむユーザーもいます。それはそれでいいと思います。

ともあれ、エレクトーンはこうして、かつての「気軽に楽しむ楽器」から、「その気になれば高度な芸術をも追求できる究極の楽器」に進化したのです。

さて、ピアノとの比較に戻ります。ピアノはエレクトーンのように音色を変えたり混ぜたりすることはできませんが、単一の音色でありながら、あらゆる音色を彷彿とさせる表現が可能です。ピアノの響きの中には宇宙があり、波紋のように広がる音世界をさまようのはなんとも魅力的です。

エレクトーンは音色を変えたり重ねたりすることができますので、より直感的に色彩感に富んだ音楽を生み出せます。しかし、奏者が持つ確固たるイメージよりも音色の方が多彩になってしまい、聞き手に違和感を与えるケースも少なくありません。

そして決定的な違いは、ピアノの音は減衰を免れないけれど、エレクトーンは減衰系の音を選ばない限り、鍵盤を押している間中、音が持続するという点です。

しかもエレクトーンは、打鍵中に鍵盤に掛かる圧力の変化を、常時音色に反映させ続けています。だんだん強くしたり、急激に暗くしたり、鍵盤への圧力をコントロールすることで、音の表情を自在に調節できるのです。

そのため、ピアノよりもはるかに持続性のあるタッチが不可欠となり、音が続く限りは常にタッチをコントロールし続けなければなりません。

エレクトーン演奏を極めるには、ピアノ演奏には必要のないタッチを習得する必要があるばかりでなく、ピアノ演奏のタッチ感はむしろ邪魔になる、もっとストレートに表現すれば、ピアノを弾くとエレクトーンが下手になることすらあり得ます。(その逆はよく言われますね)

かつてはピアノタッチの方が高度で上位にあるものとされてきましたが、すでにそれぞれは完全な分化を遂げており、もはや同じ道筋では極められない時代に入ったかもしれません。