崔岩光ディナーショー 長生館

新潟村杉温泉の長生館で開催された秋のディナーショーでは、16ヶ月ぶりとなる崔岩光さんとの共演を実現でき、とても充実した一夜となりました。

19日は、午前中の飛行機で大阪から新潟へ。真夏の暑さが残る大阪と比べ、新潟は10度も気温が低く、低い雲が垂れこめていました。ガーデンでの演奏会を予定していましたが、それはどうも諦めなければならないようです。

長生館に到着し、ガーデンを望むロビーでしばしのコーヒーブレイク。崔さんには少し部屋で休んでもらって、その間に自分のウォーミングアップをしようと目論んでいたのですが、崔さんが「神田さん、じゃあ、やってみようか」と切り出し、その足で会場へと向かうことになりました。

この時点でまだ演奏プログラムは決まっていません。互いにスケジュールが合わず、事前のリハーサルができなかったので、すべては当日にという段取りになっていたのです。

私は、これまで崔さんと共演したすべての曲に加え、今回やってみたいとリクエストのあった数曲を、いつでも弾けるようにしておく必要がありましたが、実際のところ、それら全曲を丁寧に準備しておく余裕はありません。

プログラムが決まった時点から、猛ダッシュで仕上げるしかないのですが、その時間もないようです。

ところが、ここでうろたえては良い演奏はできません。私ならできる!と自分に言い聞かせ、自分はラッキーなのだから大丈夫と祈りながら、平常心を装います。

ステージで演奏の準備が整ったところで、早速リハーサルがスタート。「では、まずは何から行きましょうか」と私。崔さんは「何でも」と余裕です。

私はあえて一番自信のない曲を選びました。今回、初めて弾くオペラアリアです。曲については十分に解釈してありますが、崔さんがどう歌うのかは、やってみなければわかりません。

前奏に続き、崔さんの張りのある声が響き、刻々とテンポや表情を変えながら音楽が進んでいきます。

エレクトーンの音は立ちあがりが遅く、どうしても遅れて聞こえがち。歌とぴったりと呼吸を合わせるためには、声よりもわずかに先に打鍵しなければなりません。その絶妙な加減は、何度も共演している曲ならば完全な予測が可能ですが、初めての場合は反射神経を研ぎ澄ませて対処します。

1度目の合わせが終わり、崔さんから若干の要求があっただけで、OKサイン。この曲を軸にプログラムを決め、そのうち幾つかの曲を軽く合わせてリハーサルを終えました。

それから私はステージに残って、音色データの修正です。というのは、用意されたエレクトーンに不具合があり、ペダル鍵盤が圧力による音色コントロールを受け付けない状態だったため、全曲のデータを調整する必要が生じたのです。

ソロのコンサートであれば致命的な不具合ですが、伴奏であれば微調整でなんとかクリアできると判断しました。

その間、客席では食事の準備が進んでいます。テーブルマットには、大女将さん筆の案内が。予定ではここで食事をして、ガーデンで演奏を聞くという趣向でした。

食事の後は、いよいよショータイム。コシノヒロコさんデザインの和紙を使った大胆なドレスで登場した崔さん。いつもながら気品あふれる姿にうっとりです。

本番はリハーサルよりもはるかに表現が高まりますが、その方が私も音楽を作りやすいので、何の不安もなく気持ちよく合わせることができました。

途中のトークタイムでは、掛け合い漫才のようなノリに。崔さんは実はとても気さくです。

全10曲のプログラムを終え、客席からは崔さんへの惜しみない拍手が響いていました。アンコールは2曲。私もリラックス気分です。

75分のステージはあっという間でした。私にとっては、久しぶりに伴奏として務めたステージ。最近はソロステージが圧倒的に多いので、アンサンブルの楽しさに酔いしれるひと時でした。

終演後のレセプションでは、張家界音楽週での最優秀音楽演奏賞受賞を記念して大女将さんからプレゼントを頂きました。窓に何気なく映り込んでいるカメラの人は長生館のイベント担当、坂井さんです。

長生館に一晩泊まって、翌朝は楽しみにしていた朝食を。外食オンリーの生活なので、素朴で健康的な料理を味わえる機会はごくわずかです。なんだか故郷に帰って来たような気分でした。

朝食を終えると空が明るくなってきました。素晴らしい「気」をたたえる庭で深呼吸をして帰路につきました。