山口での演奏会を終えて

山口でのふたつの演奏会を終えて帰京しました。同じ主催者が、内容のまったく異なるソロ演奏会を二日続けて開催するというのは、非常に珍しいことです。会場が違えば準備の手間も二倍かかるわけですが、お客様も私も異なる体験をすることができ、とてもいい思い出になりました。

一日目はホテルでのディナーショー。会場は前回と同じセントコア山口でした。山口市には設備の整ったフルサービスの高級ホテルがほとんどありません。県庁と湯田温泉が近く、旅館が多いことも影響しているのかもしれませんが、フォーシーズンズやリッツ・カールトンでなくても、せめてニューオータニやオークラといたクラスのホテルは、今後必要だろうと思います。

そんな中、セントコア山口は、市内でも屈指の設備を持っており、フェスティブシーズンに皆さまにお集まりいただくのにピッタリなホテルです。加えて、たいへん親切に協力してくれるところも信頼に値します。この日も、早い時間から準備を進め、万事滞りなくお客様を迎えることができました。広島から来たという新しいシェフによるお料理も大好評。ちらっと会場を覗きに行くと、会場内もホワイエも、そこだけふわっと温かい気が集まっているかのような、やわらかい雰囲気でした。

演奏も、ディナーショーらしくくつろいだ雰囲気をイメージしました。おとなりの方と軽く会話したり、飲み物を片手に楽しんでもらおうと組んだプログラムだったのですが、その読みは大ハズレ。皆さん、一音一音にまで聞き入ってくれ、通常のクラシックプログラムと同じような引き締まった雰囲気になってしまったのです。もちろん、こうして音楽をより深く受け入れてくださることはたいへん素晴らしく、喜ぶべきことです。問題は、私自身でした。

まず、場の空気を和ませる力が足りないことを痛感。ディナーショーですから、音楽性や技術よりも、心を満たすことが大切です。そして洗練された雰囲気や、粋な言葉など、少々芝居がかっているくらいの方がいいのですが、なんともサマになっていない自分がもどかしくていやになります。それでも、お客様はたいへん温かく、最後まで演奏を見届けてくださり、惜しみない拍手をいただきました。

思い通りの演奏とは程遠かったにもかかわらず、お客様をお見送りする際には、嬉しい言葉をたくさん掛けていただき、ちょっとホッとしました。お客様はちゃんと何かを受け止めて、心を満たしてお帰りになったのです。おひとりおひとりの表情がそれを物語っていました。

翌日は旧県会議事堂でのクラシックコンサート。こちらも慣れ親しんだ会場ですので、準備はスムーズ。たっぷりリハーサルをして、響きも体に馴染みました。今年は、楽器の背後に当たるセクションも客席として開放し、サントリーホールのように、360度をお客様に囲まれる環境に。ひときわ立派な椅子が置かれた議長席には誰が座るかなと楽しみにしていましたが、さすがに空席でした。

プログラムは、リサイタル級の濃密なものを用意。ディナーショーと比較して、体力も集中力も2倍以上必要なプログラムでしたが、不思議なことにこちらの方がずっと楽に弾けました。議事堂はコンサートホールではありませんが、生声で会議をしても聞き取れるよう、響きにも工夫された建物です。時折、共振の雑音が出てしまうことや、議席に響きが集中し、傍聴席や後方に音が均一に届かないため、場所によって聞こえ方が違うことはありますが、演奏しやすい環境です。

そしてお客様が音楽を満喫しようという気持ちたっぷりに座ってくださっているので、会場の一体感が実に素晴らしかったです。360度囲まれるというのも、皆さんに守られているような感じがして、とても気に入りました。気が付けは二時間越えのコンサートでしたが、私にとってはあっという間のことです。

こうして二日間で20作品以上をご披露した演奏会が終わりました。隣室では共催のペルー協会によるペルー展もオープン。ペルーの踊りや民芸品の即売が行われ、おおいに賑わいました。南米の文化と西洋の文化に触れ、一日で地球の多くの部分を旅できるいい企画だったと思います。

終演後には打ち上げ交流会があり、実行委員会の皆さんと親しく過ごしました。演奏会の成功を私以上に喜んでくれている皆さんの笑顔は、本当にステキです。このように迎えられ、演奏の機会を与えてくださることを、なんという幸せだろうとしみじみ思いました。

そして、また来年もというお声を、本当にたくさんお客様から掛けていただきました。実行委員会の皆さんも、そのご期待に応えようと考えてくれていますので、きっと実現するでしょう。今から楽しみです。

FAN’sブログにもレポートを書いていただきました。公演中やリハーサル中の写真もありますので、ぜひご覧いただき拍手を押してください!