東京に夏がきた

静かな部屋でひとり過ごしていると、どこからともなく蝉の声が聞こえて来ました。そういえば、今年耳にするのは初めて。都心にもやっと、ほんとうの夏がやって来たようです。

その声の主をひと目見てみようと思い立ち、外へ出てみると、さほど気温は高くなく、薄い雲に日差しも陰りがちです。スカッとはしませんが、散歩にはちょうどいいかもしれません。

木につかまって、盛んに声を上げる蝉の姿は、すぐに見つかりました。私も、彼等のように、もっと必死で奏でなければなぁと、溜息。

その先では、猫がのんびり、我物顔で寝そべっています。そして、どこのどいつだと言わんばかりの冷ややかな視線を向けています。かといって、攻撃的ではなく、むしろ基本は無関心という感じ。

ここは私のふるさと、東京だぞ。おまえこそ何者だ。そんなふうに視線を返してちょっかいを出そうとしても、ふん、という反応。

あんたのふるさと?笑わせるな、ほとんどここにいないくせに。根っからの旅人には、ふるさとなんてないんだよ。

確かに、彼等はじっとここで暮らしているのですから、主はあちらです。また遥か遠くへ行ってみたくなりました。