演奏の表現力を高めるには

昨日、エレクトーンのコンクールを鑑賞してから、ずっと「表現力」について考えていました。

講評で審査員の先生がおっしゃったことも、集約すると「より伝わる演奏を心掛けてほしい」というもので、私もそれに同感です。では、どうしたら表現力が身に付くのでしょうか。そもそも表現力とは何なのでしょうか。

表現とは、内面的なものを形象として客観化することを意味し、その手段には、表情や記号、ことば、造形などが用いられます。そして、表現したものは、対象に理解されることで、関係が成立します。

音楽表現にもいろいろな手法がありますが、弾き手が何かを伝えようとし、聞き手がそれを受け入れるという流れは共通です。

表現力のある演奏に必要な要素は主に3つ。まず思い浮かぶのは、内面を客観化するための演奏テクニックです。

音に表情や意味を持たせ、聞き手に自然に受け入れてもらえるだけの腕前を磨かなければなりません。演奏テクニックは、日々の稽古や鍛錬によって、着実に伸びていくことと思います。

次に自己を解放する技術。表現を意味する英語「express」の語源は、ラテン語の「(果汁などを)絞り出す」という言葉だそうです。まさに心の中から何かを絞り出す、あるいは溢れ出るものを躊躇なく曝け出すには、思い切った覚悟が必要です。

そして、3つ目にして最も大切なのは「伝えるべく内面を持つ」ということ。実はこちらの方が、手に入れるのが難しいかもしれません。いくらテクニックが素晴らしくても、心が空っぽでは、演奏に説得力が伴いません。

見事な腕前だけでも人をあっと言わせることは可能ですし、瞬間的な賞賛を得ることもできるでしょう。でも、せっかく音楽に勤しんでいるのなら、もっと深いものを目指してもいいと思います。

幸い、私が昨日聞いた子どもたちの演奏からは、3つ目の「伝えるべく内面」の存在が感じられましたが、それを存分に解き放つには、まだためらいがあるようです。

演奏する曲のことをとことん理解し、そこから生じる感情を、卓越したテクニックで余すことなく伝えきる。それには、内なる殻を突き破る勇気と大胆さが肝心です。

それは一度身につければ一生ものです。初めて自分でこぐ自転車のようなものでしょうか。