キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ at ハイアットリージェンシー東京

羽根のように大きな雪が軽やかに舞った東京。午後のひとときには、フォトグラファーの池谷友秀さん、メイクアップアーティストの岡田知子さんと共に「トロワグロ」でミーティングを兼ねた食事をしました。

昨晩は寝台列車で移動。思いのほか揺れる乗り心地に酔いそうで、車内での作業を断念し、ベッドで膝を抱いて座って、雨と共に流れる車窓を眺めていました。

時折停まる深夜の駅に人影はなく、とても不思議な感じ。東京駅が近づくにつれ、通勤電車を待つ人がホームに溢れる光景が続くようになりましたが、あくまで静かな個室からは、まるで幻のように見えました。

東京駅に到着しても自宅には戻らず、ランチをする店があるホテルのレストランで朝食をとり、そのままラウンジで作業をしながら約束の時間を待ちました。

久しぶりに対面する池谷さんと岡田さん。へんな表現ですが、ふたりとも世界の旅から帰った人のように、前回よりも逞しくなったような気がします。

早速、予約をしてある「トロワグロ」へ。店内は満席の賑わいですが、空気が騒々しく乱れることもなく、実にいい雰囲気です。窓からは外光がたっぷり入り、夜とはまた違った明るさも心地よく感じられます。

とりあえずシャンパンで再会を喜び合い、突き出しをつまみながらメニューを眺めます。

ランチはコースが2種類、そして昼夜共通のアラカルトです。チョイスはふたりに任せました。私はその間に、彼らがコースだった場合、アラカルトだった場合それぞれにマッチしたチョイスを用意しておきます。

池谷さんが仔羊をメインに選びました。ということはアラカルトでいくようです。岡田さんはそれを受けてサーモンをチョイス。池谷さんが選んだ仔羊は、ブロックの骨数の関係から2人前がベースですので、私のメインは必然的に仔羊に決まりました。

そして前菜とデザートを選び、注文を済ませました。私がホストですので、すべての注文は私から伝えました。

まずは小前菜、かぼちゃのヴェルーテ。

三陸産帆立貝、雲丹とワカメのフィーヌ・メルバ

メインディッシュの前に、自家製トウフのラビオリ

スパイシーな仔羊の鞍下肉 ハリッサの香り

アヴァンデセール

今日もやっぱりキャラメルのスフレ

食後の飲み物と一緒に小菓子

料理もサービスも期待通りでした。以前は斬新さが先に立っていましたが、今ではむしろオーセンティックさが沸き立って来ました。落ち着いたサービスと十分な気配りにも満足です。

さあ、見事な料理ばかりに気を取られているわけにはいきません。今日の大切なテーマは、撮影コンセプトとプランです。

池谷さんに撮ってもらうようになって最初の頃は、「私を写してもらう」という気持ちが強かったのですが、今では「コラボでひとつの作品を仕立てる」という気分です。

私が被写体ですからモデルとしては貧弱ですし美しさも皆無ですが、音楽家の生きざまや魂を写真という形で残していく作業に特別な意味が感じられるようになってきたので、毎回楽しみで仕方ありません。

テーマは「果てしなく続くひとり旅」。立ち止まっている自分自身はイメージできませんし、人と群れて腰を据えている自分も想像できません。それを池谷さんはどう表現してくれるのでしょうか。

メイクの岡田さんの役割も見逃せません。女性と違って私を「塗装」しても不気味になるだけですので、劇的な変化を生むわけではありませんが、彼女に接していると、自分自身の内面がどんどん引き出され、こんな素人モデルでも、なかなか魅力的な被写体になってしまいます。

池谷さんの写真に欠かせないのは水。今回は海でロケをすることになりました。コスチュームのおおまかなイメージも確認し合いました。どんな「旅人」が写し出されるのか、今から期待に胸が膨らみます。

それと同時に、私が稽古を付けている高校生を劇的に洗練させるためのプロジェクトもスタートしました。むしろこちらの方に熱が入っているかもしれません。

音楽と写真、そしてメイクアップ。普段はほとんどといって接点のない私たちですが、こうしてテーブルを囲むと、日々感じていることが意外なほどに共通していることに驚かされます。

むしろ同じ音楽をやっている人であっても、会話の次元がまったく合わないことが少なくありませんし、一向に視野が広がらないような気もします。

今日も、朝から夜まですべてが刺激的であり、有意義でした。こうした体験の積み重ねが、ステージで音楽になって放たれているのかもしれません。