プラネタリウムコンサート at 相模原市立博物館

今日は相模原市立博物館プラネタリウムでのコンサート「宙からの贈り物」が開催されました。開館15周年を記念する大切なイベントに招かれ、多くの相模原市民の皆様、そして遠方より駆け付けて下さった皆様に囲まれながら演奏できたことは、とても大きな喜びです。

今日のコンサートは絶対に忘れることのできない思い出になりました。こんなトラブルは初めてですし、演奏家にとっては厳しい条件下での演奏には、非常に神経をつかいました。

約束の時間に博物館に到着すると、担当の方々が表まで出て迎えてくれました。皆さん本当にピュアで一生懸命な方々です。

今日のイベントを心から楽しみにしてくれていて、毎日知恵を絞りながら、コツコツと準備を重ねてきてくれたに違いありません。この皆さんの努力に報いるだけのよい演奏をお届けしたいという気持ちが、一層強まりました。

用意された立派な控室には、薔薇のアレンジメントが飾られ、飲み物や茶菓子なども並べてあります。そして嬉しいのはおしぼり。演奏前にちょっと手をぬぐえるのはありがたいものです。衣装や靴を整理して、早速会場へ向かいました。

今日はエージェント泉さんが大活躍。一足先に音響さんと打ち合わせに入っているところに私が加わりました。聞くと、どうもエレクトーンの出力系統に不調があるらしく、通常とは違う出力端子からPAするとのこと。

結果的にお客様のところによい音が届けば、私はそれで十分。それでは早速音を出してみましょう。

エレクトーンの電源を入れた直後は、パネルが初期状態になっており、最もベーシックな音が出るようになっています。その音色のまま、鍵盤の感触を確かめつつ、自分専用のデータが入ったUSBメモリを挿し込みました。とりあえずPAされた音もいい感じです。

初期状態から、自分用のデータに切り替えると、音色の組み合わせが複雑になる分、出る音もダイナミックになります。早速1曲目を軽く弾いてみようと思いましたが・・・青ざめ・・・致命的なトラブルが発覚したのです。

エレクトーンの各鍵盤には、2系統の音色群が搭載されており、それぞれの鍵盤で2系統の音色を重ねて演奏することが可能です。加えて2系統の単音音色群があり、上鍵盤では最大4音群、下鍵盤では最大6音群、さらにオルガン音色や打楽器などを加えられる仕組みになっています。

ところが、すべての鍵盤における第2音群の音がまったく発音しないか、もしくは雑音のような耳障りな音を発する状態になってしまっており、これでは音楽的な表現は不可能です。

楽器を運搬してきた業者さんは、搬入時に全鍵盤の発音チェックをしますが、なぜその際に気付かなかったのでしょう。

業者さんは電源をつけてすぐ、初期設定の音色のままでチェックをします。すると第2音群はOFFになっていますので、第1音群しか発音しなくても気付かないというわけです。実際、私も自分のデータを読み込むまで気付かなかったのですから。

泉さんが楽器を提供してくれているYAMAHAと連絡を取り、代替の楽器をすぐに運搬してきて、交換することになりました。

しかし、代替楽器は足立区の倉庫から来ます。開演まで2時間。間に合うのでしょうか。いや、間に合ってもらわなければ。

とにかく、博物館のスタッフさんたちも大変心配してくれていますが、これ以上不安にさせるわけにはいきません。今できることをする。トラブルの時はそれに尽きます。

とりあえず、きちんとした演奏はできませんが、プラネタリウム映像との手順などを確認しなければなりませんので、すぐにランスルーを始めました。

演奏はスルーしようかとも思ったのですが、演奏と演出とのシンクロ部分もあるので、正しい尺で全曲弾いてみることにしました。

音色が大きく乱れるだけで、これほど弾きにくいとは。そこには想像を超えた苦労がありました。途中、まったく発音してくれない部分も多数でてしまい、何を弾いているのかわからなくなりました。

それでも、演出をしっかり確認して、頭に入れておかなければなりません。次は本番なのですから。映像の終わりにぴったり合わせられるよう、演奏スピードもコントロールする必要があります。

段取りは1度のランスルーでしっかり頭に入りました。あとは楽器が間に合ってくれることを祈るばかり。次第にスタッフたちにも動揺が広がり始めます。私は「大丈夫!必ず何とかしますから」とニッコリ。そうするしかありません。

泉さんが、こちらに向かっているトラックと密に連絡を取っていますが、それによるとどうも間に合いそうもないとのこと。首都高が激しい渋滞で身動きが取れないのだそうです。担いで持ってくるわけにはいきませんし。

仕方ない。最後の手段です。TANEちゃんに電話をして、「おたくのステージア、持ってきて。」とお願いしました。TANEちゃんが素晴らしいのは、つべこべ言わず、すぐに行動に移してくれること。

小柄なTANEちゃんがお母様とふたりで楽器を車に載せるのはさぞや大変だったことでしょう。手伝いを向かわせたいところですが、時間に余裕がありません。

すでに開場し、お客様が揃ったプラネタリウム。間もなく開演時間です。そこにTANEちゃんが到着。すぐさま楽器の差し替えを実施し、GOサインが出たのは開演1分前でした。

この日、YAMAHAが用意してくれた楽器はプロフェッショナルモデルでした。しかし、TANEちゃん所有の楽器はカスタムモデルなので、鍵盤数が足りません。しかたなく、プロフェッショナルモデルの足鍵盤はそのまま残し、メインのユニットだけをカスタムモデルに替えるという策をとりました。

しかも、私自身が楽器の状態を確認できないままに本番を始めなければならなかったので、気持ちの上でも非常に厳しいものがありました。

とにかくベストを尽くす以外にありません。司会者の呼び込みでステージへと進み、楽器にスタンバイ。鍵盤のコンディションや画面の設定などを確認する時間はないので、ある意味、見切り発車で演奏をスタートしました。

整備したのかどうかわからない飛行機でのフライトはこんな気分なのかもしれません。弾きながらあちこちに不都合が見つかり、でも演奏に集中しなければと自分を律しながら弾き続けるなんて、もう二度と経験したくないほど気分の悪いものでした。

それがまた、プラネタリウムコンサートでのハプニングというのがダブルパンチです。プラネタリウムでは演出の都合上、照明が極度に暗くなるシーンが多数あり、その時は鍵盤すら見えません。こうした中で集中力を保つのは、ただでさえ至難の業です。

とりあえず1ステージ目を何とか終えました。やっと到着した業者さんに楽器を再度入れ替えてもらい、2ステージ目がスタート。1ステージ目よりは格段に落ち着いて演奏できましたが、やはり暗闇のストレスは想像以上に大きなものがありました。

それをお客様に感じさせないように、精一杯配慮したつもりですが、どうだったのでしょう。

いやはや、貴重な経験となりましたが、多くのスタッフさんに見守られ、なんとか終えることができたというところでしょうか。汗を流してくれた皆さんに感謝!