過去にすがらず、未来を見据える

今朝は西武新宿線の特急「小江戸号」に乗って、本川越に向かいました。第一電装部品株式会社の創立50周年パーティに出席して、演奏をお届けするためです。

私は現在、年間200回以上のステージに出演していますが、その半数以上がクローズ、すなわちあらかじめ来場客が決まっており、一般にチケットを販売しないエクスクルーシブなイベントでの演奏です。

今回のような会社の記念パーティをはじめ、研修会、顧客招待会、大使館や私邸でのサロンコンサートのほか、学校でのコンサートもクローズの一種です。

普段はクローズのレポートは控えるようにしているのですが、今日のパーティはひときわ印象に残りましたので、ご紹介したいと思います。

まず、どのような経緯で私が呼ばれたのかですが、やはりここでも数奇な縁がチャンスをとりなしてくれました。

昨年秋に開催した大賀ホールでの神田将リサイタルに、人から勧められてたまたま来場したという第一電装の社長。私の演奏を初めて聞いた時、「これを皆に聞かせたい」と思ったのだそうです。

「思った」だけで済ませないのが、社長たる人間の行動力。私に直接メールを下さって、50周年の催しに招きたいとのお申し出を頂いた際、私は余計なことは一切考えずに、直感に従ってお引き受けすると返信しました。

10月はコンサートが続きますので、スケジュールの確保が難しい時期ですが、これもタイミングがぴったりと合ってクリア。

こうして準備が着々と進んでいく中、会長が姜建華さんに二胡を習っていたとか、社長ご本人もピアノやエレクトーンを嗜まれるとか、神戸や小樽に縁が深いことなどなど、社長ファミリーと私とを結ぶ接点がたくさんあることがわかりました。

私が50周年のパーティで演奏することは、もう始めから運命づけられていたのかもしれません。

こうして迎えた当日。私のチームは午前9時に会場となる川越の氷川会館に到着しました。隣接する神社には、七五三を祝うファミリーや結婚式に出席する人々が多数見受けられ、厳かな中にも晴れやかな雰囲気が感じられます。

氷川会館の外観はレトロな洋風建築ですが、内部は改装して間もないインテリアです。

パーティの幹事さんや司会者さん、氷川会館の担当者を交えての打ち合わせを済ませ、すぐに楽器セッティングとリハーサル。カーペット敷きの宴会場なので、響きは理想と程遠いものだろうと覚悟していたのですが、弾き始めてみると案外いい感じの手応え。これなら良い演奏をお届けできそうです。

響きを確かめながら、しばらく音だしをさせてもらい、音響に納得したところで、一度楽器をばらしてステージから外しました。これは、会場の皆さんに「サプライズ」をプレゼントしたいという社長の意向を受け、ギリギリまで楽器を見せない趣向にしたからです。

時計を見ると、開場時間が迫っていました。私も急いでタキシードに着替え、皆さんと一緒にテーブルに着きました。

パーティはまず社長の挨拶からスタート。50年の実績を誇らしげに語るのかと想像していましたが、まったく違いました。世の中の役に立つということの大切さと、それを実現できた時の充実感についてを主軸に語られたのですが、久しぶりに説得力のあるいい話を聞きたという気持ちになれました。

そして、今回のパーティに私がなぜ呼ばれたのかを理解すると同時に、後の演奏でお届けしなければならないものの大きさに気付き、これは一層心して取り掛からなければと、身が引き締まる思いがしました。

社長は従業員の皆さんを楽しませるだけではなく、本物のなんたるかを感じてもらうために、私を指名したのです。周囲がどうあろうとも、自らのプロダクツのクオリティのためにベストを尽くし続けること。その理念もまた、社長と私の共通点です。

続いて勤続表彰。長く勤め続けている従業員ひとりひとりに記念品と表彰状を手渡す姿にも、深い愛情が感じられました。会長の挨拶と乾杯の発声があって、いよいよ食事が始まりました。

通常、演奏前に客席で食事をするのは、考えられないことなのですが、今回はなぜかそうした方がいいような気がして、列席させてもらうことにしました。そして、その食事の美味しいこと。嬉しい半面、こりゃ困ったなと思いました。

あまりたくさん食べてしまうと、体が重くなりますし、集中力を削がれる結果になりますので、ほどほどにしなければ。でも、美味しいので、結局全部食べてしまいました。マネジャーが気を遣って、私を楽屋に連れ出そうと迎えに来ますが、「あともう少し」と言って追い返し続けました。

食事がひと段落ついて、10分間の休憩。その間に舞台をセッティングした後、社長の紹介を受けてステージに登壇しました。演奏曲は、ギリギリまで悩んだ末に、コンサートピースを中心に9曲を披露しました。

過去にすがらず未来を見据える社長の理念を表現する選曲と演奏を心がけた60分。私なりに精いっぱい燃えた気持ちの良いステージでした。

演奏後は、TDRのパスポートが当たる抽選会!抽選、発表、贈呈の役をやらせていただきましたが、とても楽しかったです。

私は終身一匹狼で通すのがお似合いだと自分でも思っていますが、万が一、アルバイトをすることになったとしたら、第一電装の皆さんの仲間に入れてもらいたいものです。反骨精神むき出しの私が、「組織も悪くないな」と思うなんて、ある意味奇跡的かもしれません。それほどに魅力的な会社と魅力的な社長さんでした。