今日もほぼ200㎞

最終列車とともに、鹿角の街にはしっとりと夜の帳が下りたかに見えましたが、想像とは裏腹に激しい夜でした。
零時前、雷鳴とともに閃光が走り、少しの間だけ激しい雨が降りました。その後も、閃光だけはしばしば見られましたが、雷鳴はすぐに止みました。どうやら通り雨だったようです。

そして、泊まった宿の客室が蒸し暑く、寝苦しい一夜でした。翌朝、スタッフのひとりが言うには、あまりの寝苦しさに気分が悪くなり、深夜に冷水風呂に入ったとのこと。空調の効きがよくなかったのかもしれません。

しかし、朝になると蒸し暑さは消え去り、前日までの強い日差しもなく、過ごしやすい一日となりそうでした。雲の多い空ですが、雨にはならずに済みそうです。

今日のコンサートは午後の1回のみ。会場は尾去沢中学校です。尾去沢は1,300年の歴史を持つ鉱山の史跡で有名。学校は市街から山間への入口付近にあり、草が茂る土のトラックコートが印象的な自然豊かな環境です。

午前中を利用して鉱山の見学に行くことも考えたのですが、やはり時間が許す限り稽古に励むべきと思い改め、午前中から楽器をセッティングして、ギリギリまで稽古をしました。

体育館で最初に音を出した時、まるでコンサートホールのようにリッチで自然な響きが得られることに驚きました。ここならシンフォニックな曲も気持ちよく弾けそうなので、リサイタルやせんくらで演奏予定のラフマニノフやワーグナーの曲を、細かく丁寧に稽古するのに時間を割きました。

コンサートは午後1時半から。今日のゲストは中学生たちです。今回のツアーで、小学生が入らないコンサートは今回だけ。小学生と中学生では、音楽の感じ方はともかくとして、理解力が格段に違います。

中学生が対象の場合は、一般向けのコンサートと同じく、細やかな感情表現が必要ですし、聞いていて楽しくなるような作品ばかりでなく、苦悩や絶望に触れる音楽も加えます。

いよいよコンサートがスタート。ステージへと進み出ると、制服を着た生徒たちが、大きな拍手と共に、姿勢を正して私を迎えてくれました。彼らの聡明な表情を見て、「今日は芸術をしよう」と、私は心に決めました。

体育館は、やもすると灼熱地獄と化す場合があるので、この季節は扉や窓を開け放ち、風通しのよい状態にしてコンサートをおこないます。でも、今回は1曲を終えた時点で、扉を閉じてもらいました。

この空間なら、空気の動きを最小限にとどめれば、ピアニッシモの絶妙な表現も伝えられるような気がしたからです。扉が開いていると、わずかなノイズに邪魔をされて、微細なニュアンスはつぶれてしまいます。

実際、扉を閉じてからは、細部にまで神経が行き届くようになり、音楽表現の幅は格段に向上しました。それにしても、中学生たちの集中力は見事なものでした。演奏中も、私が話をしている時も、そのまなざしに乱れや迷いは感じられません。それに支えられ、今日は予定を大幅にオーバーして約90分のコンサートとなりました。

終演後はまた荷づくりをして、不快適ハイエースくんに乗り込み、横手へと移動しました。同じ秋田県内への移動なのに、行程の8割は岩手県内を走行。もうこれで3度目の道なので、新鮮さもありません。そもそも、高速道路からの景観は、あまり心躍るものではありませんしね。今日もまた約200キロ走って、横手のホテルへと到着。

夕暮れの景色とともに、今日一日を振り返り、明日はまたよい演奏を届けられるようにと念じました。

夕食はホテルのダイニングでハンバーグ。アミューズはいぶりがっこチーズカナッペ。