風花 at コンラッド東京

ホテルで食べる鮨なんて、オフィスのコーヒーと同じで、一見それらしくあっても価値を感じない。これが私のホテル内鮨店に対する印象で、餅は餅屋じゃありませんが、鮨を食べるなら巷の鮨屋へと、相場は決まっています。

かつて、1980年代後半から90年代初頭にかけては、付き合いでホテルの鮨店もよく利用しましたが、まったく満足したためしがなく、その頃の印象が強く残っているというのが、これまで避けてきた大きな理由です。

ホテルの鮨店に魅力がないのはなぜでしょう。

それなりに清潔で、サービスも行き届いていますが、肝心な味がいまひとつな気がします。

鮨職人にとって技が命であることは言うまでもありませんが、ネタの目利きも同等に重要です。
巷の鮨職人は必ず自ら河岸に足を運び、そのお眼がねにかなった素材を仕入れますが、ホテルでは食材を一括して購入するシステムがあり、鮨職人に素材選びの権限が与えられていないことが多いようです。

鮨の味を大きく左右するネタを職人自ら吟味できない状況下では、いくら優秀な技術を持った職人でも、モチベーションを高く保つことが困難であるに違いありません。
こうした事情が重なり合って、ホテルの鮨店は勢いを失ったのではないかと、私は推察してきました。

ところが、近年はこうした悪循環を打開するホテルがでてきました。
今回訪れた、コンラッド東京の日本料理店「風花」にある鮨カウンターもそのひとつです。

モダンで都会的な一面と、和の情緒を巧みに融合させた日本料理店は、流行を超えて最近の定番になっていますが、ここ「風花」もそんな新時代の店です。

店内はどちらかというとシャープな印象で、高い天井とシンプルでクールな内装は、外資系高級ホテルならでは。加えて、大きな窓から見渡せる浜離宮と東京湾の見事な眺めも魅力です。

今日は大安吉日。すがすがしい天候にも恵まれ、あちこちで結婚式がおこなわれている様子。この店も、結納やらで個室は早くから埋まっており、ホールの席はすでに満席とのことでした。

でも、鮨カウンターだけは、他に客がなく、有能な職人を独り占めしながら、ゆったりと楽しむことができました。

鮨カウンターでのランチは、3,300円から7,800円まで揃う火~土曜の昼メニューの他、夜のコース、好みにぎりなどにも対応しています。
今回は7,800円の昼メニューを注文しました。

コースは、先附、旬菜、にぎり8貫、巻物、味噌汁、水菓子という内容。そこに一貫追加で。

にぎりは1貫ごとに絶妙のタイミングで出され、シャリの量やサビの効き具合の好みも尋ねてくれます。

職人自ら吟味したネタはひとつひとつ印象深く、クエやイサキの心地よい歯ごたえ、宮崎からのトロの口どけなど、日本人に生まれてよかったとしみじみ思いながら味わいました。

海老は卵黄をまぶした、江戸前ならではの菜種海老。

最後のカッパ巻きにも手を抜かず、職人気質を貫いていました。

若い女性のサービスも、器の扱い方や、手の差し伸べ方までよく練られていて安心でした。

内容とサービスを考えれば、とてもリーズナブルでお値打ちですし、女性同士でも安心して利用できるので、母娘のひとときにでもいかがでしょうか。