青いヒコーキ

札幌から大阪への移動に際し、今回は全日空を利用しました。
別に何ということのない話題ですが、私にとっては改宗にも匹敵する大事件です。

私はもっぱらのJAL派です。
ものごころついたころから、飛行機といえば尾翼に赤い鶴丸が描かれているのに乗っていたので、特に深く考えたわけでもなく、習慣的に日本航空を選んで数十年が経ちました。

とはいうものの、かつてJALとANAが国際線と国内線で役割を分けられていた頃は、大抵目的地に応じてJALかANAかが決まるという具合でしたので、ANAにも何度も乗りました。

当時を振り返ると、両社が拮抗する国内幹線の印象はどちらも甲乙つけがたいところでしたが、国際線におけるサービス内容や風格において、日本航空は群を抜いていたと記憶しています。

外国各社が斬新さや躍動感といった時代の先をいくイメージを打ち出す中でも、奥ゆかしさや伝統美を保ち、機内に流れる時間の質という点では、他社には醸し出せない上質さを感じさせてくれましたが、それは、帝国ホテルやホテルオークラで感じる空気の質に通じるものがありました。

でも、世界がどんどん狭くなり、外国を掛け回るビジネスマンが増える中で、こうした地味な魅力は埋もれてしまい、ついには時代遅れと感じられるようになったのかもしれません。

JALが二の足を踏んでいる間に、ANAは革新的なイメージ戦略を次々を打ち出し、航空業界をリードする勢いを身につけただけでなく、たちまち若者の好感やあこがれをほしいままにするまでに躍進しました。

こうした背景を認識しながらも、私はなぜJALを選び続けたのでしょうか。
ひとつには、かつての黄金時代を体験してきた者として、今なおその幻影を引きずっているということは否めません。

外国の、それも地の果てのような環境で数週間さまよい、この世のものとは思えないような空港ターミナルで、JALの機内に足を踏み入れた瞬間、「おかえりなさいませ。東京行きでございます」と声を掛けられた時の安堵感。この時ばかりはCAが聖母に見えたと、心に深く刻まれています。

今のJALは機内サービスにムラを感じます。まるで国際線ファーストクラスみたいだと夢心地にさせてくれる素晴らしいチームに出会えることもあれば、ファミレスのランチタイムの方がまだマシみたいな粗末なサービスにガッカリすることもあります。

先日もとあるJAL便でコーヒーを頼んだら、CAは「了解しました」と返答をし、コーヒーを運んで来た際には「砂糖とミルクは大丈夫だったでしょうか」などと尋ねられ、言葉の教育はいったいどうなっているのかと不思議に思いました。これは国内線ファーストクラスでの出来事です。

一方、ANAの機内サービスは、私の目には定しているように感じられますが、JALに比べると圧倒的に搭乗回数が少ないので、当たりにもハズレにも遭遇していないだけかもしれません。

しかし、ANAが初めて国際線に就航した際に、香港へのフライトにANAを選んだことがあるのですが、この時の印象は極めて悪く、「もう二度と全日空の国際線になど乗るものか」と後悔しました。

それから、ANAの広告がどうも私の感性には合わず、なんとなく避けたいと思うひとつの理由になっているような気がします。

そんなわけで滅多に乗らないANAですが、今回久しぶりに利用してみて、さまざまな点に新鮮さを感じました。

ANAでは4月1日より、国内線普通席での冷水と温茶以外の飲みものが有料化されました。コーヒーは200円、ジュースは500円(今はキャンペーンで300円)などなど。。。
その代わり、スターバックスコーヒーだったり、千疋屋ジュースだったり、有料でも価値があるとされるラインナップです。

こんな調子で、買う人ってどれだけいるんだろうと思っていたら、「千疋屋ジュースは売り切れました」とのアナウンス。意外と人気のようです。ヘッドホンはリクエストしないと貸してもらえません。そのうち「トイレのご使用は300円」なんていう時代が来るかもしれませんね。

それは冗談としても、あれもこれも有料化や終了では、納得がいきません。

最近は旅割とか超割とか、お得な航空料金設定による競争が激化し、それが経営を圧迫しているひとつの原因ともされています。まあ、気ままな旅などで、安い運賃を活用している限りでは、サービス削減もいたしかたないと割り切れるかもしれませんが、定価で乗っている人にしてみれば複雑でしょうから、お得意様を大切にするのと同様に、高い料金で乗ってくれるお客様にも特別なサービスを提供した方がいいように思いました。

それにしても、やはりANAの方が何かとセンスはいいですね。機内販売のリストも、ラウンジやシートの工夫も、よく考えられていて、一方のJALは考えがいささか古いのでは?と思えてきます。

このように各社の個性がより鮮明に浮かび上がって来た今、それぞれの会社が何に力を入れていて、どんな企業でありたいのかも、はっきりと見えるようになりました。

今でもJAL派の私ですが、現時点ではANAの方に将来性を感じます。JALの皆さんが誠心誠意励んでいることは痛いほど伝わってきますが、もう一歩先を見越したアイデアで、なるほど!と思わせてほしいと願っています。