米津真浩、ピアニスト。出会った頃は、音楽大学を卒業したばかりで、いくつかのコンクールに入賞し、まさにこれからが期待される気鋭の新人でした。そう形容すると、少々こ生意気で、怖いもの知らずの若者像が浮かぶかもしれませんが、気弱なところがあったり、落ち着きがなかったり、まるで捨てられた仔犬のようだなと思った記憶があります。
ところが演奏を聴いたら印象ががらりと変わりました。この味はいったいどこに由来するのだろう。これまで優れた演奏に数多く触れ、芸術のひとつの完成形や歴史上の最高峰を知る機会のあった私でさえ、その抒情は衝撃的でした。心の奥底にしまい込んだ深く耐えがたい痛みに、初めてピアノの音が届いた瞬間だったのです。
ただ、この音楽の処方は万人に効能があるとは思えませんでした。ピアニストとして生活を安定させるには、普遍的な評価を維持しなければならず、この類稀な表現力を授かったピアニストは、この先も苦労するだろうと案じずにはいられませんでした。
それからというもの、機会があれば演奏会の共演者として旅に連れ出したり、互いの演奏会を鑑賞したりと交流を重ねましたが、旅先で何度か食卓を共にしたくらいで、いわゆるプライベートな付き合いはありません。その数少ない対話の中で、この先、どんな活動をしたいのかと尋ねた際、自分はきちんと音楽を重視した演奏活動を主軸にしたいと断言し、それが今も交流の礎になっています。
私たち演奏者にとって、自分のすべてを捧げるに値する作品に出会えるほど幸せなことはありませんが、やっとの思いで磨き上げ、皆さまにお聞かせする準備が整ったとしても、それが必ずしも歓迎されるとは限りません。今の時代、順調にチケットを売りたいと願うなら、人の喜ぶことをするというのが鉄則ですが、それはちょっと寂しい気がします。
この度、自身の演奏会にオールラフマニノフのプログラムを選んだ米津真浩さん。前半がピアノ独奏、後半に協奏曲を配し、非常に深く充実した世界を打ち出しましたが、その思いを汲み取ってチケットを買った人はそう多くないようです。
願わくば、リスクを承知で勝負に出た演奏家に、自分の選択は間違っていなかった、世の中まだ捨てたものではないと、希望を持たせてやろうではありませんか。こうした演奏会が衰退すれば、やがて世界からほんとうの音楽はすっかり消えてなくなってしまうでしょう。
娯楽が主流の時代において、今、芸術の意味が問われているように思えてなりません。そんな感覚に共感してくださいましたら、ぜひ足をお運びください。美しい音楽の中で、よい時間を分かち合いましょう。
チケット購入⇨ https://teket.jp/15489/66074 または https://shop.yksonic.com
過去の共演の様子から https://youtu.be/0B4rG-ujOHE?si=Wtmtnu99Ee00nAYg

