アラン・シャペル at ポートピアホテル

まもなく30周年を迎える「アラン・シャペル」は、神戸を代表するフレンチレストランとして名を馳せています。
現代フランス料理の巨匠であるアラン・シャペル氏は、「厨房のダヴィンチ」と称され、その類稀なセンスと技術を多くの日本人シェフにも惜しみなく伝授しました。
そのエスプリは今も忠実に引き継がれつつも、常に新しいインスピレーションを感じさせてくれています。

今回は7カ月ぶりの再訪。
友人の結婚記念日を祝う晩餐会でした。
この日のための特別な献立とワインセレクションには、並々ならぬ思いが込められており、記念すべき一夜にふさわしい内容でした。

昨年よりシェフがかわり、その変化がどう料理にあらわれているのかがとても楽しみでした。
メニュはシャペル氏のレシピによるスペシャリテで構成され、調理法や盛り付けはシャペル風ながら、素材のチョイスには新しいシェフならではの発想が感じられます。
特に県産の食材を多用しているのが印象的でした。

どの皿にも手間暇を惜しまず、実直で丁寧な料理に仕上がっていますし、見た目のよさでごまかすことをせず、味の直球勝負であるところがたまりません。
そして、どの料理も見事に香り立ち、それを確かめるために鼻から息を吸い込むたびに、クラッと来て体中の力が抜けるような感覚です。

これらの料理を一層引き立てるサービスもまた素晴らしいものでした。
結婚記念日を迎えた友人がこの店に懇意であることもあって、給仕たちが適度にリラックスしており、働きながらも楽しそうに見受けられました。

あらゆるタイミングは完ぺき。まるで演出家が脚本を書いたような一連の流れが感じられ、食卓を囲みながらも洗練された舞台を見ている思いでした。

それもそのはず。
後で聞いたところによると、デセールのスフレは、いかによい状態でスピーディーに提供するかを、当日までに何度かリハーサルを重ねたとのこと。
舞台のような楽しさと驚きは、こうした努力に裏打ちされてたのでした。

改装で軽くなったと違和感を覚えいた内装ですが、すこし時間が経ったことで真新しさから抜け出し、風合いのよさが感じられるようになりました。食卓を照らすハロゲンの光も効果的に思えました。BGMがないのも、むしろ心地よく感じます。

この日のメニュ

ポークリエットと寒ブリのマリネ

ポテトのタンバルにのせた弓削牧場のフレッシュチーズとキャビア

赤座海老とゆり根の軽いクリームスープ バジルの香り カプチーノ仕立て

淡路産三年とらふぐのロティとムール貝のマリニエール トリュフのクーリ

フォアグラをピケした青首鴨胸肉 ルネアーズソース

フランス産ナチュラルチーズのいろいろ

和歌山産 温州みかんのグラニテ

神戸産さちのか苺のスフレ バニラアイスクリーム

コーヒーと小菓子

ワインセレクション

ルイロデレール クリスタル 1999

ブラン・フュメ・ド・プイィ / ディディエ・ダグノー 2004

ムルソー・シャルム (ルロワ) 1990

シャトー・オーブリオン 1998

クロ・ド・ヴージョ(ルロワ) 1998

どれも見事でしたが、オーブリオンが圧巻でした。

クリスタルはどの料理にも寄り添ってくれます。
ヴージョはとてもエレガントで貴婦人のよう。

名店の底力をじっくり堪能した一夜でした。