sleeplessness

最近、演奏会前日に眠れなくなってきました。持久力のためにも、質のよい眠りを取りたいものですが、夜通し不安に苛まれて朝になり、そのまま身支度をして会場へ向かうケースがほとんどです。昨晩も、せっかくよいホテルに泊まったのにベッドは未使用。タオルもまだ足りているし、ゴミはゼロ。アメニティも未使用なので、部屋の清掃は不要と伝えて会場へ出掛けました。

9日の朝、大阪は強い雨。でも、昨年の台風直撃、避難勧告、会場閉鎖危機に比べたら、中止の心配がないだけ気楽です。その雨も、ホールに着く頃にはほとんど上がっていました。会場に着いてまず最初にすることは、荷ほどきです。衣装を吊るし、必要ならばアイロンを掛けを。今回はホテルのプレスサービスを利用したので、プロが丁寧に仕上げてくれました。自分ではこうは仕上げられないなと惚れ惚れ。続いて靴の状態を確かめて、必要なアイテムをテーブルに陳列します。

その頃にはステージの準備が整っています。会館の皆さんも、昨年ご一緒しているので安心。音が落ち着かない限り安心できないので、ホール内のあらゆる場所で音を確かめながら、リハーサルを進めます。不思議なことに、音が昨年とは違って聞こえました。いろいろ微調整を試みますが、パーフェクトとはなりません。それに、お客様が席に着いた時に、音がどう変化するかの予測も難しいホールです。せっかくならベストな音環境でお聞きいただきたいとの思いが、以前より強くなっていることも、判断を複雑にしているのかもしれません。

いずれにしても、音響に納得がいかない状態での演奏は、大きなストレスになります。安心して音楽に集中してこそ、よい演奏が実現するわけですが、ひとりで弾きながら確かめるというのは限界があるように思います。

そして本番中にも私を悩ませたのが、数々の雑音でした。お客様が発する細かい音はさほど気にならず、それによって集中力を絶たれることはありません。でも、空調の音、扉の開閉音、更には上階の練習室から漏れる祭囃子の音は、かなり辛かったです。それは、今回のプログラムに繊細さが際立つ作品が並んでいたせいでもあります。もしこれが先月の新潟のような音楽専用大ホールだったら、どんな音でもたちまち音楽にしてしまうような魔法の空間ですので、何の心配もなく演奏に集中できますが、今回はそうはいきません。

その一方で、お客様の雰囲気にはおおいに助けられました。それほど真剣に音楽にがっつきたいというお客様ではなかったと思うのですが、ここは息をひそめてくださいね、ここから盛り上がっていきますよという無言のシグナルに対し、敏感に反応してくれていました。更に、若い皆さんが生き生きとした視線を舞台に向けてくれていることにも力をもらった気がします。一曲目を弾き始めてすぐさま左足をつり気持ちが負けそうになった時も、一万回練習して成功率99%にまで上げてあった部分をクリアできずにいっそ死にたいと思った瞬間にも、お客様は私の支えになっていました。

ステージで演奏している時、自分はひとりだと考えるべきか、多くの人と共にあると思うべきか、難しいところです。昨日のこと、あるエスカレーターにひとりで乗ったら、あまりのノロさにじれったくなりましたが、次に何人かで乗ったら遅いと感じませんでした。時間の流れ方は、ひとりの時とそうでない時では違うことに気づき、ならば多くの人と共にあると実感する方が落ち着いた演奏になるかもと思ったのです。今日の演奏会でそれを意識したところ、真実であることがわかりました。ひとりで稽古する時にも、満席の大ホールで弾いているつもりでやってみようと思います。あれこれ考え始めたら、今夜も眠れそうもありません。

image