エレクトーンのレジストづくり

ある曲をエレクトーンで演奏しようと思ったら、練習の前にいくつかの段階を踏む必要があることは、以前にも触れました。

その中でも電子楽器特有の作業なのが、「レジストレーション」と呼ばれるデータの作成です。

実に多くの音源がエレクトーンに用意されていることは、皆さんよくご存知でしょう。

上・下・ペダルの3段の鍵盤に対し、様々な音色を組み合わせてあてがうだけでなく、それぞれの音色ひとつひとつに細かい設定を施すことができますが、これらの設定の手順がいかに複雑で面倒かはあまり知られていません。

そして、このレジストレーション(以下レジストと表記)そのものが、仮に同じ曲を選んだとしても各演奏家によって大きく異なる仕上がりになるので、それもひとつの個性として鑑賞のポイントになります。

レジストに「正解」や「不正解」はありませんが、その聞き映えや心地よさには、個人の好みを越えた「質の差」というものが確かに存在します。

洗練されたレジストを作成することは、よい演奏を実現する上で欠かせない作業であり、レジスト作成のセンスは、演奏技術や精神性と同等の価値を持つと言っても過言ではありません。

いよいよコンクールシーズンが始まり、今年もすでに多くの皆さんの演奏を聞かせてもらいました。

意欲的な選曲や編曲、熱のこもった演奏、そして喜びや悔しさ。それぞれが1年の1曲に込めた深い思いを表現するわけですから、より華やかに、よりダイナミックにと、凝りに凝ったレジストを作成して、思い切り演奏する姿を多く目にします。

その結果、演奏者本人の存在感よりも楽器が出す音の方が先行し、見た目に違和感があるだけでなく、音楽性が損なわれてしまう残念なケースも少なくありません。

では、演奏者の存在感が際立ち、なおかつ演奏効果があがるレジストを作るにはどうしたらいいでしょうか。ここからはエレクトーンユーザー向けの専門的な内容です。

まずは、演奏者がどれだけタッチで音色をコントロールできるか、それをきちんと把握し、そのレベルに見合ったレジストにすることが大切です。

たとえば、フルートの音を出したい時。まったくのデフォルト(初期状態)からフルートの音色(1~4どれでもいい)を選んで、何かのメロディーを弾いてみます。

ここで美しい音だと感じないなら、その時点で弾き方に問題ありですから、レジストを工夫する以前に、タッチコントロールの技術を習得しましょう。

このタッチの技術なしにレジストを作り始めると、どうしてもブリリアンスを高く設定したくなるはずです。そうすれば、楽な力で華やかな音がでますが、華やかさが強調されるのと比例して、音の芯が失われていきます。

こうしてブリリアンスの平均を高く設定したレジストは、ふくらみや温かさに欠けてしまいます。部分的に華やかさを強調するのは構いませんが、レジスト全体での平均値が真ん中を越えないように注意しましょう。

わかりやすく例えるなら、ブリリアンスもビブラートも、あるいはエフェクトも、いわば調味料や化粧品のようなもの。スパイスはほどほどに効かせなければかえって嫌味になりますし、どうもバッチリ決まらないからと言って、どんどん化粧を重ねていったら、バケモノのような仕上がりになるのと同じです。

ブリリアンスを控えるのには、もうひとつ理由があります。エレクトーンの電子音を長時間にわたり聞くのは、かなり疲れます。そのため、多くの人が30分程度で飽きたり、もう十分だと感じ始めるようです。

その原因のひとつが、派手すぎる音にあります。弾いている本人は気持ちよくても、聞き手には耳障りである場合もあり、十分な注意が必要です。

そして、コンクールでも演奏するのは自分ひとりではありません。自分の演奏を派手に聞かせることばかり考えずに、長時間演奏を聞くお客様や審査員にも配慮して、耳障りではないレジストを心がけるその気持ちが、感性豊かな演奏に通じるのです。

あと、レジストの手直しを繰り返していたら、収拾がつかなくなったという話もよく聞きますが、こうした失敗を避ける上で大切なのが、最初にしっかりとしたイメージを持つことです。
どんな仕上がりにしたいのか、あらかじめイメージを持ってから設定を始めましょう。

そしてレジストにもファッション同様に時代の流行というものがありますが、こうした流行は音楽から感じとるのではワンテンポ時代遅れになります。そのため、私は最新のファッションや最先端の料理などに敏感になることで、その傾向から潮流の先端をつかむようにしています。

他にもコツやポイントはたくさんありますが、それだけでも1冊の本になるほどに奥深いものです。より細かいことは、また追ってご紹介しましょう。

とにかく、まずはひとつひとつの音源のシンプルな音の美しさを深く知り、ナチュラルで心地よいレジストを心がけて下さい。