コンサートというものは

舞台での演奏を何度経験しようとも、決して思い通りに事が進んだことはありません。いつでも予想外の事が起こり、それに振り回されてあっという間に終わってしまいます。

14日、新潟での演奏会でも、思いもよらなかったことがいくつもありました。その多くには対処できましたが、ひとつでも取りこぼしがあれば、完全に解決するまで見逃せない課題であり、頭痛の種です。

ひとつは、楽器との相性。今回はわたじん楽器さんが、ほぼ新品のコンディションのよい楽器を用意してくれました。鍵盤のさわり心地もよく、反応も鋭敏です。しかし、音色の変更に使用する足元のスイッチが、いまひとつしっくりきませんでした。本格的にスポーツをする方ならおわかりいただけると思いますが、製品としてはまったく問題なくても、道具として体に馴染まないものに遭遇するのは、そう珍しいことではありません。

わずかな雑音がリハーサル時から気にはなっていたものの、自分が慣れればいいのだと判断し、そのままの状態で本番にのぞみました。ところが、お客様はきわめて集中力が高く、演奏中は物音ひとつ客席から聞こえてきません。そのような環境だと、エレクトーンの鍵盤を叩く音をはじめ、音楽以外のすべてが雑音となり演奏の品質を落とします。

私は相性の悪いスイッチに、いつになく慎重に対峙する必要が生じ、本来なら音楽表現に注ぐべき注意を、そちらに向けなければなりませんでした。その時の心境は、殺人鬼に押し入られて、クローゼットに隠れながら見つかるのを恐れているような感じ。息も止めたいくらいでした。

体力のいる独奏が続いた後、初共演のゲストに尽くすために、ありったけの集中力で臨んだ第1部を終え、袖に戻ったのが開演から70分後。ホールの構造上、お客様がくつろぐホワイエを経由しなければ楽屋に戻れないため、空調の効かない舞台袖で待機。そのままのコンディションで第2部を始めたら明らかに酸欠で、ここぞという場面で集中力が定まらず、あと一発でKO負けの状態で、なんとか持ちこたえた本番でした。

リハーサルで妥協はしない。必ず本番と同じ状況で全曲のランスルーをする。おかしいと感じたことには、必ず対処する。最近、自分で決めたこのルールを軽んじていたことを深く反省します。

一方、ゲストの清水理恵さんは、実に素晴らしい演奏を披露してくれました。リハーサルの時から感じていましたが、非常に勘のよい歌い手で、一伝えれば十応えてくれます。アンサンブルも短時間ながら緻密でひらめきに満ちたいいものができました。ぜひまたステージでご一緒したいです。