何を残せたのだろう

年に一度の東京ソロコンサートが終演しました。力不足でいろいろとありましたけれど、やってよかったと思います。とにもかくにも、応援してくださった方々に感謝。みんな大好きです。

私のコンサートは、ファンで埋め尽くされるようなことはなく、いろいろな思いと目的を持った方々が一堂に会する、いわば駅や空港のような場所です。

今回は下町の公共複合施設にあるホールを使わせていただきまして、くたびれ加減といい、味気なさといい、ラグジュアリー度ゼロでしたが、そこがまた愛おしく、むしろ親近感を持てました。ハコが違えど、心意気は同じ。

そして品のいいお客様に恵まれているのも、私の自慢のひとつ。満席にはほど遠い結果ではありましたが、何においても量より質という考えでやってきましたので、舞台に歩み出て客席のムードを受け取った瞬間に、これでいいのだと納得ができました。

よいお客様にお集まりいただき、気心知れた裏方たちがステージを設えてくれたのですから、あとはよい演奏をするばかり。焦りも過度な緊張もなく、まさしく理想的なスタートになりました。

最初はドビュッシーのピアノ曲3つ。余計な手を加えず、ドビュッシーのエッセンスをそのままに、音色だけ置き換えて演奏。シンセサイザー的な発想で、ユニークな音をふんだんに使いながらも、原曲の持ち味を損なわないように。

ご挨拶のトークを挟み、ユーレイズミーアップ。これまでさまざまな楽器や歌手と共演した曲ですが、独奏するのは今回が初めて。クラシックの合間にポピュラーを織り込んで、少し気分を変えてみました。

ここで新しいエレクトーンについての話を。私がエレクトーンに求めることと、あらゆるプロがその道具に求めることに照らし合わせながら、期待と懸念を率直に伝えました。

1部の後半はホルストの組曲「惑星」から3曲。この際、全部やろうとも考えましたが、そういうのはあまり歓迎されないので、ほどほどのところで。

「火星」を弾きながら、新しいエレクトーンの良さと難しさを実感。ディテールがくっきり出るので、今までよりもよほど緻密に弾かないと。会場のデッドさも相まって、中盤に行くまでに疲れ果て、「頑張れジジイ!」と自分を鼓舞。こりゃ大変です。

休憩15分はボーッとするばかり。若いマネジャーが気を利かせて「いや〜最高!」と、どよ〜んとした楽屋に明るく爽やかな空気を運んでくれたのがせめてもの救い。この、休憩時の喝入れというかチアアップは、本当に重要でして、折れそうな心に、かすかな希望を与えてくれます。

かつて、名プロデューサーと仕事をしていた頃、休憩になると楽屋の扉から顔を覗かせ、「評判いいよ、皆さんトイレで嬉しそうに噂している」と言ってくれたのを思い出します。

そんな、男便所じゃ噂なんてないし、女性トイレの様子なんて知る由もないはずなのに、それにどれほど助けられて来たか。今では若いマネジャーがその役目を踏襲いています。

後半はムソルグスキー「禿山の一夜」から。若きマネジャーがこの曲名を「禿」と略すのが気になるところ。次は「禿」だよね、だって。ふつう「禿山」だよ。でも「禿」だと、なんとなく気構えが楽になります。

気楽になったはずでしたが、この荒々しい交響詩を軽やかに弾くには、体力が枯渇していました。気持ちと体に乖離が生じるというのは老いの哀しき現実でしょうか。

第2部の「お口直し」は、ハリウッド名画「風と共に去りぬ」タラのテーマ。照明がいい感じに変化しているのを受けながら、気持ちよく弾きました。

そして最後はラヴェル「ボレロ」。これまで短縮版で弾くことがほとんどでしたが、今回は新機種で弾くにあたり、一度すべてバラして、一からやり直してノーカットにしました。

やはり全体を通してこそラヴェルのボレロであって、このサイズでなければ、高揚感を通り越したトランス感には届かないことを理解しました。

ただ、せっかくのボレロも、疲れすぎてボロレロです。ここがソロの厳しいところ。共演者がいれば、もう少し火事場のなんとやらを引き出せるのですが、ソロはバテるのが早いです。今度はバレエとやりたい。誰か踊ってくれません?

ざっと、こんなザマだったわけですが、それでもお客様はそれぞれに何かを受け止め、心を満たしてくださいました。終演後はロビーに出て、お客様と少しお話しすることもできました。

スタッフが片付けを終えるのを待ち、通用口で挨拶を交わしてホールを後に。外の風が気持ちよかった。開催に際しご尽力くださいました東京労音の皆さまに、改めて感謝いたします。

私は今日、何を残せたのだろう。もはや自分のために何かをするというフェーズではない。誰かのために、主には次の世代を生きる若い人たちのために、伝えられるものを伝えていきたい。そんな思いで帰りの通勤電車にひとり乗り込んだ6月6日でした。

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