パトス四重奏団の演奏会を鑑賞して

1月のとある夜、予てより楽しみにしていたパトス四重奏団の初東京公演を鑑賞しました。小雨降る中、コートの襟を立てて向かったのは、立派なプロフィールを持つ奏者たちからは想像もできない、古びた公共のホール。およそ室内楽向きではなく、ここで4人の実力が発揮できるのだろうかと心配しながら席に着きました。

自分も人様の前で演奏する立場であることから、どうしても余計なことに意識が向いてしまいがちです。ここはあえて気持ちをニュートラルにして、純粋に音楽を楽しみたいところ。今日は審査員でもないし指導担当でもないと心で唱えて静かに開演を待ちました。

音楽の嗜み方はさまざまです。技量に感嘆するもよし、音楽解釈の質に着目するもよし。ただうっとりと聞き惚れることもあるでしょうし、じっくりとディテールにフォーカスすることもあるでしょう。私はできるだけ先入観を持たず、音楽を通じて何が語られるのか、そのストーリーに意識を置くことにしています。理屈でなく、インスピレーションで伝わるものに魅力を感じるので、ただ心を開いて、音を光のように浴びるのが好きです。

演奏開始から終演までは、あっという間でした。4人とも技術的にも音楽性でも非常に優れているので、演奏から得られる満足感は絶大です。響きもせず、音の融和すら妨げるような会場でありながら、そうしたマイナス条件を忘れさせるほど、音楽的に夢中にさせてくれたのですから。音楽に心地よい脈動があって、最新型のラグジュアリーカーで森を駆け抜けるような感覚に、室内楽の新時代を見た思いです。

そして4人が互いに尊び合いながら、絶妙なバランスを保っている姿を見て、こういう関係っていいなあ、そういえばあいつはどうしているかなぁと、久しく連絡していない旧友たちの顔が次々と思い起こされました。

演奏会のほんのり温かい余韻とともに会場を後にすると、来た道と同じ寒空の下が不思議と明るく感じられ、ちょっと得した気分。すっかり出不精になり、演奏会に出かけるのも気が重く、お客様が会場に足を運んでくださることのありがたみを身を持って実感したわけですが、音楽に心満たされ、帰り道の気持ちよさというのも味わったことで、自信を持ってお客様をお誘いしていいんだと思えるようになりました。