大分から宇部へ

大分本番から宇部本番まで4泊も空くので、一度帰京し、落ち着いて練習したかったのですが、大分と宇部は地理的に目と鼻の先ですし、そもそも東京から宇部への空路が満席で取れないので、このままゆっくりと移動して宇部を目指すことにしました。

大分から青い特急ソニックに乗り、門司港のホテルに泊まり、椿姫の楽譜を仕上げ、ほんの少しだけ気分転換に街歩きを。その途中、中井智彦さんの舞台チラシが掲示されているのを発見し、友の活躍に喜びを感じるひととき。

ところが体調は最悪。どんなに調子が悪くても、本番だけはどうにかなって来たという自信が、ここで初めて揺らぎました。宇部の本番を台無しにするわけにはいかない。その一心で凌ぎ、何とか湯田温泉まで移動。

湯田温泉ではいつもコンサートを開催してくれるチームが温かく迎えてくれたばかりか、旧県会議事堂を練習場所として整えてくれ、加えて姫路チームがエレクトーンを設営してくれたおかげで、この上ない環境で宇部の練習ができました。

しかし、こんなに恵まれた環境で、最大の意欲を持って、落ち着いて集中しているにも関わらず、体は思うように動かず、いつもできることさえ、きちんと弾けない状態に呆然。人目がなければ号泣したいところですが、ぐっとこらえて繰り返し弾くことに専念しました。

夜には歓迎会を企画してもらっていましたが、どうにも動けず失礼ながら欠席。楽しみにしていた温泉も諦めて安静に徹したものの、時間と共に自信もなくなり、すべてを一気に失う気分を味わったのです。

そうして迎えた本番前日のリハーサル。湯田温泉から宇部の渡辺翁記念会館へは、合唱団員でもある紳士がメルセデスで迎えに来てくれ、いつもは通らない緑溢れる裏道の景色に癒されながら快適に移動し、立派で風格のある会場へと到着しました。

舞台では山台を組む作業が進められ、すでにエレクトーンも設置されています。こうした空気に触れていると、無意識のうちに力が漲り、心身ともにシャキッとしてくるから不思議。東京からのソリスト一行もホテルに到着したと聞いてひと安心。いよいよ本領発揮の時間が近づいて来ました。

リハーサルは4時間続きます。ソリストのうち、テノールの澤原さんは、他ソリストとは初合わせなので、そのあたりから固めて行き、合唱団を加えての椿姫へ進めます。合唱団には舞台での動きや出ハケに慣れてもらうために、段取りを繰り返し経験してもらいました。

そしてメインの第九を。大きな問題はなくスムーズに終わり、時間通りに解散。翌日のゲネプロと本番の2度を務めれば役目は果たせるところまで来たので、あと一息。

8月2日の早朝に自宅を出てから、ほとんど眠らずに一週間が経ちました。たった3公演ですが、それぞれに全力を求められる内容で、すべてを捧げるにじゅうぶんな価値のある舞台です。これらに携われる光栄を胸に、あと一歩、体が持つことを願うばかりの公演前夜でした。