タフな一日

東京が今年一番の暑さとなった23日、軽井沢も朝から避暑地らしからぬ陽気でした。

この日は大賀ホールでのスペシャル納涼コンサート。9時前に会場へ着き、オープンと同時に東京から運んだエレクトーンを搬入しようと待ち構えていたのですが、集まっているのはバレエの女子たちのみ。

男手が来るのを待っていては、リハーサルの間に合わなくなるので、意を決して私とマネジャーとで運ぶことに。本来、力仕事は苦になりませんが、演奏前にはできれば避けたいこと。あまりよいスタートとは言えません。

結局のところ、ここから終演まで、私には水を一滴飲む時間もなく、一秒のゆとりもないまま役割を果たしました。昼食?まさかそんな贅沢はありません。トイレにも行けないのですから。いやいや、実にタフな一日でした。

進行表もありませんし、照明イメージも、ステージ転換の手順も、何ひとつ存在しないので、すべてをその場で決めながら、リハーサルを進行。これがなかなかのカオスで、よく開場時間までに間に合ったと思いますが、それは会場スタッフが実によく協力してくれたおかげです。

楽屋は雑居室しか与えられなかったので、私が着替えに戻る頃にはとっ散らかっていて、私のスペースなどどこにも残っていません。ただでさえ落ち着かない空間に、受付スタッフなども頻繁に出入りします。5分でいいので静寂がほしい。司会に必要な情報を暗記するために。でも、それも叶わず、頭の整理がまったくできていないままに開演となりました。

演奏環境も気持ちのよいものではありませんでした。舞台スペースの都合上、エレクトーンは隅に追いやられ、私は左右のスピーカーよりも外側で弾くことに。

非常に反射の多いホールで、スピーカーの指向から外れた位置にいると、遅れた反射音だけしか聞こえません。それは極めて弾きにくく、また、共演者との距離も離れてしまうのでコンタクトも取りにくい状態です。見た目にもアンバランスなのは言うまでもありませんが、できる限り質のよい演奏をしようと、必死に努力しました。

プログラム中、3曲は弦楽器の無伴奏。私はその間だけ一時的に舞台裏に戻ることができますが、その時も裏で進行の変更や段取りの確認などに対応するので、気を緩めることはできません。

このように集中した状態を長時間続けるのは、眠らないまま旅客機を操縦するようなもので、リスクが高くなります。この日はホール内の温度も高く、途中で気分が悪くなってしまいました。そういう時に、細かいミスが誘発され、それがまた士気を削いでいきます。

でも、誰を頼るわけにもいかず、ひたすら弾いて、しゃべって、共演者を讃える、を繰り返しました。

すべてのプログラムとアンコールが終わり、カーテンコール。せめて共演者たちから労いがあり、ステージの中央に招かれるだろうと思いきや、それもなく一番隅で一出演者として頭を下げるにとどまりました。

とにかく終わった。すべきことはした。後はお客様が何に気づき、何を受け止めるか。私は音楽家。音楽を護るのが仕事です。音楽の姿が正しく伝わったのなら、それでじゅうぶんなのですが、その答えを私が知るすべはありません。

ホテルに戻りシャワーを浴びてすぐに横になりました。夕食も忘れて。静寂が胸に沁みました。

写真:上田海斗