空知の空と心意気

9月23日、北海道は深川にて、アートステージ空知創立60周年記念「神田将エレクトーン演奏によるベートーヴェン第九」公演が開催され、会場は多くのお客様で賑わい、心震わす音楽で満たされました。

深川へ着いたのは公演前日の夕方。どこまでも続く広い空に誘われホテルに着くなり散歩に出て、街の様子を眺めながら気ままに歩いていたら、いつのまにか石狩川が目の前に。ちょうど夕暮れで、一刻ごとに変化する空の色に見惚れてしばらく佇みました。

公演当日は、9時過ぎに会場入りして、リハーサル。エレクトーンは道内の楽器店からお借りしたのですが、正常に作動はするものの、タッチを感知する機能が劣化していて、じゅうぶんな表現ができない状態でした。代替機材はありませんので、このまま何とかするしかなく、弾き方の工夫で解決を試みます。

タッチコントロールに必要以上の圧力が必要なため、水泳に例えると砂糖水の中で泳いでいるような感覚があり、思うように体を動かせないストレスがありました。

第九のリハーサルが始まる頃には、もう本番を終えた時のような疲労感でしたが、これからが一番神経を研ぎ澄ますべき場面。合唱団員が揃い、ソリストとはこの日が初顔合わせ。こうしてリハーサルがあるのですから、ぶっつけ本番ではありませんが、限りなくそれに近い流れです。

手ごたえは上々です。合唱団はじゅうぶんにリラックスしていますし、初めてお聞きするソリストの声もたいへん心地がよく、本番への期待が高まりました。問題がまったくないわけではありませんが、このタイミングではディテールよりも俯瞰的な視点が大切です。

リハーサル終了後、まだ開場まで90分の余裕がありました。いつもなら、ギリギリまで弾いて細かい調整をしますが、今回はキッパリと切り上げて、体力を保つことにしました。

本番は定刻通りにスタート。ソロは3曲。やはりタッチコントロールの違和感と鍵盤の滑りが気になってしまいましたが、出来るだけ音楽に集中して弾くことを心掛けます。特に久しぶりの「展覧会の絵」は気分最高。体力を消耗したものの、第九への勢いを得られた気がします。

続く第九はとても感動的でした。北海道らしいのびのびとした優しい歌声とともに、皆で手を携えて一緒に作り上げるステージだという強いメッセージが込められ、それが客席にも染み渡りました。集まった目的も歌の経験もさまざまな人たちが、思いをひとつに豊かなハーモニーを紡ぐ姿はとても美しい。これも半年間、合唱団を指導なさった工藤昌晴先生のお力あればこそと感服します。

終演後は交流会がありました。なぜ第九を歌うのか。団員ひとりひとりに熱いドラマがあり、その胸の内を聞かせてもらうのは、私の何よりの楽しみです。心温まるエピソードに、なるほどそうかと何度も頷きながら、今日の演奏会の意味と成果を噛み締めるひとときでした。

交流会が終わり外へ出ると、また美しい夕暮れが空いっぱいに。たった25時間の深川滞在でしたが、1年暮らした街を去るような気分。皆さんお世話になりました。また戻ってきます。

公演写真:上田海斗