11月24日の北千住「音楽のたのしみ」は、いろいろと記憶に残ることの多い会になりました。
まずはお客様の人数が、私の音楽人生で最も少なかったこと。その数、わずか18名様。定員25名様のささやかな催しを満席にできないとなれば、プロとして終わっていると考えなければならず、これを最後に身を引く覚悟をしていました。前日までは。
一番苦しかったのは一人で稽古に勤しむ時でした。演奏というのは、会の大小に関わらずベストを尽くすことが求められます。準備に必要な労力は、たとえリビングルームのような狭い場所でも、3千人の大ホールでも何ら変わりありません。
少しでもよい演奏を届けたくて、ひたすらコツコツと稽古する時に、どうせ誰も期待なんかしていない、と悪魔のささやきが聞こえて、心が折れそうになります。
そんな時は、万人にウケる演奏より、誰かの心に突き刺さる音楽をとの初心を呪文にして抗い、何とか平常心を保ちながら稽古の質を維持します。
内心、もうこんな思いはたくさんと、限界を感じながら迎えた当日。天気はいいし、何だか体調もよく、明るい気持ちで会場に向かいました。ずいぶんと早めに家を出たので、近所の喫茶店でモーニングなぞ嗜んで。
会場では、まず、エレクトーンを一階から地階へと元気に運びました。あの急な階段を2人で担いで一気におろします。慣れればあんがい簡単。
ほどなく手伝いの人が集まり始め、次第に活気づくアングラスタジオ。こんなに仲間がいるじゃない。なんて恵まれているのか。嬉しくなりました。
リハーサルを一通り済ませて、手伝いの仲間が握り飯を頬張るのを眺めながら雑談をしていると、最初のお客様がご到着。お顔をお名前が一致しないお客様もいらっしゃいますが、こちらからお名前を伺うまでもなく、雰囲気でチェックイン完了。そう、ここではチケットレスどころか、初参加でも顔パスなんです。
コンサート会場というよりリビングルームのイメージなので、開演前もお客様とコミュニケーションを楽しみます。皆さま時間通りにお集まりになり、定刻通りに演奏を始めました。
今回のテーマは日本人作曲家の作品。古いもの、現代のもの、いろいろ選りすぐりました。それぞれ強烈な個性と一度聞けば忘れられない魅力を持つ曲ばかりですが、何か共通するDNAが感じられるところにも面白みがあります。
特に塩谷哲さんの「海溝」を聞きたいとお申し込みのお客様も複数いらして、この曲の人気のほどを感じました。「海溝」はアレンジされたものの方がよく知られていますが、私が今回弾いたのはオリジナル版。名器GX-1のテイストをイメージしました。
ティータイムには、東京製菓学校の在校生が考案した創作和菓子でおもてなし。演奏中の引き締まった空気とは対照的に、くつろいだ雰囲気に包まれます。
後半は名曲アンコールということで、ドヴォルザークの「新世界より」を演奏。弾けるうちに弾いておきたくて、お客様にお付き合いいただきました。
弾きながら、お客様の人数は過去最低でも、これ以上を望めないほどいいお客様だと実感。こんなに一音一音を確実に受け止めてくれるとは、まさに演奏家冥利に尽きる幸せです。
そう考えると、やっぱり私は恵まれている。それに、こんな催しを一度ならず、年に何度も開催できる奏者なんて、そうはいないと考えたら、また自信や誇りが戻ってきました。
いろいろ大変だけど、これは続けなければ。私を育ててくれる学びの場でもあり、お客様と最も触れ合えるリビングルーム。音楽とまごころ以外何もありませんが、こんな催しでよかったら、どうぞ遊びにいらしてください。



