ホスピタリティ

都心の桜が咲き始め、一気に春めいて来ました。

3月19日に東京會舘で開催した「神田将エレクトーンTHE SYMPHONIC SOLO」当日は、朝から雲が広がり、夕刻には春時雨。ドレスアップしたお客様を少々困らせる空でしたが、都心の埃っぽさを和らげ、アーチに切り取られた会場の窓から眺める風景に新たな光を踊らせていました。

ふだん、場所を選ばず与えられた環境で演奏しており、どちらかというとどなたでも気軽にお越しいただける公演を主とし、エレクトーンを多くの方々に広くお届けするよう心がけてまいりましたので、こうしたセレブリティ向けの催しを設けるまで手が届かずにおりました。

今回は、さまざまなお声を頂戴する中で思い浮かんだ私なりのホスピタリティを表現する機会を求め、思い切って企画を進めることにしたのですが、かたちにしていく過程も本当に楽しく、やはり私は人様を喜ばせるのが好きなのだとつくづく実感した次第です。

形式としてはいわゆるディナーショーで、食事をして音楽を聞くというシンプルな流れに、何ひとつサプライズもありません。ただ、我が家に友人を迎えるように心を尽くすこと、それだけを考え、実践しました。これを、口で言うのは簡単ですが、実際にできるアーティストは少ないと思います。

お客様のご到着からお帰りまで、私は常に会場に詰め、ホストとして各テーブルを回り、歓迎の心をお伝えしながら、積極的にコミュニケーションを。半数が初めてお迎えするお客様でしたが、演奏開始前にはすべての方々と親しくなることができました。

ステージでは弟子の種村敬子が、ドアオープンからコンサート直前まで2時間絶え間なく生演奏のBGMを。私もその間ずっと歩き回っており、それが演奏の質を落とすことに繋がらないよう、事前にイメージトレーニングを重ねて備えました。

コンサートは聴きやすさ親しみやすさを念頭に、聴き応えたっぷりになるプログラムを組みました。ディナー中の華やかに賑わう雰囲気が一転して音楽の世界に。この切り替えといい、あらかじめご案内したタイムスケジュールに沿った食事ペースといい、こうした催しに慣れているセレブの皆さまの振る舞いはさすがです。

また東京會舘の手際にも脱帽です。この日、同会場では直前まで別イベントがあり、こちらの準備中もいささか慌ただしくなると覚悟していたのですが、わずかな時間で完璧に会場が整えられ、まるで前日から準備されていたかのように、空気まで落ち着いていました。

終演後、笑顔あふれるお客様をお見送りし、ささっと片付けて帰宅。静まり返る部屋で、お客様がそっと差し入れてくださった久兵衛の太巻きを紐解き、佐世保から届いた焼き物の皿に移していただきました。いろいろな具材の中で、細い胡瓜の絶妙な歯応えが際立ち、ああ、私は車海老や江戸前穴子になれずとも、この胡瓜みたいな存在を目指したいと思いました。

それから36時間眠りました。あれは夢だったと言われれば信じてしまいそうです。あの夜を言葉で表す語彙力はありません。詩人でもなければ言い表せないでしょう。そんなステキな夜にお付き合いいただき、一緒に思い出を創ってくださった皆さまに感謝。

写真:上田海斗