新緑の軽井沢に来ています。演奏会があるので滞在を満喫することはできませんが、この上ない爽やかな空気に包まれるだけで、身も心も少し軽くなった気がします。軽井沢のご報告は日を改めまして、まずは「奇跡のコンチェルト」シリーズ5月公演についてお伝えいたします。
シリーズの初回はプロローグとしてエレクトーン独奏をお聞きいただきました。いよいよ11名の豪華ソリストを迎える本編がスタートし、5月はピアニストの広瀬悦子さんが登場しました。
広瀬さんはパリの世界的に有名な音楽院を出られ、以来25年に渡りパリを拠点としてご活躍です。今回は1ヶ月ほど日本に滞在して各地でリサイタルをするスケジュールの中、タイミングよく出演してくださいました。
広瀬さんと私には直接のご縁はなく、広瀬さんのデビュー当時から交流のあるクラシックソムリエ田中泰さんが間を取りもち今回の共演が実現。田中さんには願ってもない出会いを作っていただき心より感謝しています。
広瀬さんとの初対面はラフォルジュルネの舞台裏でした。姜建華さんの公演を終えてステージから袖に戻ると、広瀬さんが拍手で迎えてくれ、昔からの知り合いのように自然と話が弾みました。広瀬さんは次の公演が控えていたので、ほんの短い時間の会話でしたが、これならきっと共演もうまくいくと確信しました。
そして初めて落ち着いて会ったのはリハーサルの時。それは公演前日のことです。霞町音楽堂に現れた普段着の広瀬さんは、気取らず飾らずといった感じながら、シュッと洒落た雰囲気があり、さすがパリ暮らしだなと思いました。
荷物を置くなりすぐピアノを弾き始めたのですが、急に音楽が始まって空気が変わるというのではなく、川があればそこに水が流れ、木があれば酸素が出てくるのと同じように、ごく自然に、当たり前のように音が馴染んでいるのが、むしろ新鮮でした。
「頃合いのよいところで声を掛けてくれればいつでもお相手します」とスタンバイを伝えると、「もうやりません?」とのお誘い。いきなりかいな!と一瞬ドキッとしましたが、意を決してエレクトーンに構えました。
初めて一緒に音を出す。この瞬間はいつもドキドキします。もちろんできる限りの準備を整えてはありますが、想像と違うと感じさせてしまったり、何か演奏に支障をきたすようなことがあったらどうしたものかと不安になります。
でも、いざ演奏が始まると、迷っている暇はありませんし、不安に怯える必要などないことにもすぐ気づきました。広瀬さんは、仮にエレクトーンが期待通りでないとしても、まったく動じないほど揺るぎない音楽を持っていますし、私はこうしたいというシグナルをストライクで打ってくるので、とても気持ちがいいのです。
リハーサルで共演への不安材料が消え、あとはそれぞれが調整するばかり。広瀬さんもエレクトーンにたいへん興味を持たれ、実際にエレクトーンを覗き込んであれこれと質問してくれました。
そして広瀬さんのソロのリハーサルに。ショパン、ブラームス、ツェルニーをうっとりと聞かせてもらいながら、なんて贅沢な時間だろうと満たされました。無駄がなく、余分な作為もなく、そこにあるすべてを音楽と同化する演奏に触れ、こういう人のことをピアニストっていうんだなと改めて納得しました。
そして迎えた当日。前日リハーサルを受けての調整をして、一夜でもう一歩だけ前進したところでの直前リハーサルは、初回より一層楽しく感じました。あとはリラックスして本番に備えます。
今回も多くの皆さまが興味を持って集まってくださいました。開演前から霞町音楽堂らしいムードで満たされ、気持ちも高まっています。
冒頭はエレクトーン独奏でベートーヴェン「運命」の第1楽章を。そしてシリーズの趣旨をお話しして、広瀬さんをお迎えしました。最弱音も決して聞き逃すまいとピアノ独奏にすっかり引き込まれるお客様。広瀬さんの息遣いが最後列まで伝わるのはサロンならではです。
空気の引き締まる演奏時とは対照的に、トークでは大きな笑いが何度も沸き起こります。真面目な印象の広瀬さんですが、実は喋るとめちゃくちゃ面白くて、ついついいろいろ聞いてしまいました。
「室内楽ではピアノパートが圧倒的に音数が多くて自分だけ負担が大きいと思って来たけど、自分よりたいへんなことしてる人、初めて見ました」と言ってくれたのはとても嬉しいです。
後半はいよいよコンチェルト。今回のメインディッシュはベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」。この日のために総譜からエレクトーン用に編曲しました。
これまでベートーヴェンは交響曲しか弾いてこなかったのですが、ピアノ協奏曲も交響曲同様にベートーヴェンらしさに溢れているので、新しい曲と向き合っているというより、どこかで会った人と再会するような感覚でした。
いざ本番の演奏が始まると、広瀬さんは2度のリハーサル演奏とは格段に違うド迫力。細部まで神経を行き届かせつつも大胆な表現で客席を圧倒します。流れが明確なので、こちらが迷うこともなく、とても快適でした。
サロン空間でグラスを傾けながら「皇帝」を聞く。それも、雰囲気だけの「皇帝」ではなく、紛れもない「皇帝」だったと思います。それはひとえに広瀬さんのピアノ独奏が素晴らしいからなのですが、私もそこに加勢することができ、とても光栄でした。
アンコールはサン=サーンスの動物の謝肉祭から水族館を。エレクトーンをシンセサイザー的に使った不思議な音の世界に広瀬さんのピアノが漂いました。ささやかながらにインパクトがあったこっとでしょう。
終演後は恒例のお客様との交流時間。音楽があれば、初対面の方々とも会話が弾みます。
6月はピアニストの青柳晋さんをお迎えしてのラフマニノフのピアノ協奏曲第3番。すでに多くのご予約をいただいているようです。この勢いに乗って名手たちとの共演からさまざまなことを学んでまいります。










