人が見向きもしなくてもそこにある美しいもの

完ぺきな静寂と、ホッとするような発見を求めての小旅行。春を通り越して初夏の陽気となった週末に、果たしてそんな幸運がつかめるのでしょうか。目指したのは、20年前に友と歩いた小さな入り江でした。

これほど美しいのに、その美しさに息を呑む人は誰もいません。目に入るのは、わずかな釣り人だけ。あとは完ぺきな静寂があるばかりです。

波打ち際に行ってみると、融けた金属のように滑らかな砂浜。まるで別の星に来たかのよう。でも、ふと見れば小さな花。やっぱりここは地球です。空には鳥も。たった一羽、高く高く舞い上がっていました。

一本の河津桜が、誰に見つめられるでもなく、美しい花を咲かせています。同じ頃、河津駅近くの川岸は、桜並木を愛でる見物客でごった返していることでしょう。一本桜と対話ができたなら、分かち合えるものがたくさんあるような気がします。