シューベルトとベートーヴェンの午後

来月には私のディナーショーが決まっている神楽坂のラリアンス。今日はそこでピアニストを招いてのアフタヌーンコンサートがあるというので出掛けて来ました。

ラリアンスのエントランスは、いつ訪ねてもワクワクさせてくれます。繁華街の賑わいから、扉ひとつで別世界。エスカレータをあがり、レセプションで静寂に包まれたかと思えば、今度はダイナミックなダイニングホールへ。昼間は陽の光も入り込み、リゾートのテラスのようです。まずは「美食の歓び」と銘打ったランチコースを。アミューズから始まり、途中にグラニテを挟むフルコースです。店内はほとんど満席ながら、男性客は私の他、もうひとりだけ。まさにマダムたちの隠れ家。


アミューズは真鯛。ガラスの皿がよく似合います。


前菜は鴨肉のサラダ。スティック状にしたインカの目覚めがユニーク。


ニンジンのスープには、ベーコンのダシが効いたフォームを浮かべて。


魚料理は甘~い帆立貝。削ったミモレットがアクセント。


ジンジャーのグラニテ。さっぱりしているだけでなく、メインディッシュに向けて胃袋をゲンキにしてくれます。


メインディッシュは牛フィレ肉。


デセールはワゴンからチョイス。5種類のケーキと3種のグラスデザートの他、ソルベも用意されていますが、控え目にガトーショコラとモンブランのスモールカットを。

トップライトからの光を浴びながら食後のコーヒー。ここまででもじゅうぶんに満足。ふつうのランチなら、さて現実世界に戻ろうかとなるけれど、今日はそのままの空気感でピアノ演奏が聴けるなんて。

ピアノ演奏は上階にあるスペースで。コンパクトな空間に、わずかなイス。最も後ろの列に座りましたが、それでもホールならSS席。ここにいる誰もが「自分のためだけに演奏されている」という感覚を味わえそうです。

さて、ピアニストはというと、佐藤卓史(さとうたかし)さん。直接の縁がない演奏家のことは、どんなに有名でもほとんど知らない私。でも、その人の音楽に初めて触れる時は、余計な情報なんてない方がいいのです。目の前の演奏をただ受け入れる。音楽というのは、人工物でありながらも自然の一部なのですから。

演奏はシューベルトの「12の高雅なワルツ」からスタート。軽やかにふたつ弾き終えたところで、挨拶とトーク。自然体な演奏に好感を持ちましたが、トークもわかりやすくてさらに好感度アップ。

前半は「12のワルツ」の間に、「アンダンテ」と「ソナタ断章」を差しはさむスタイル。ピアニストも30歳前後と見受けられ、31歳で世を去ったシューベルトの余命短い頃と重なって、感慨深く響いてきます。

後半はベートーヴェン2作品。それも「6つの変奏曲」と「ソナタ32番」とリサイタルさながらの堂々たるプログラム。とりわけソナタは気絶するかと思うほどの素晴らしさ。どう素晴らしいかを表現するには、言葉では足りません。少なくとも人知を超越したものに射抜かれた感じです。

佐藤卓史さんのことは今日初めて知りましたが、本来なら大ホールで満場のオーディエンスを熱狂させるべき人です。それがこの小さな会場で、ランチ付きで8,000円?今日集まった方々はラッキーでした。演奏後にはお茶とお菓子が振舞われましたが、ベートーヴェンに溺れてしまってもうムリ。いまなおため息です。