プラネタリウムバレンタインコンサート明石市立天文科学館

久しぶりの、そして東京以外では初めてのプラネタリウムコンサートは、シンプルながら初めてづくしの内容で、新鮮さとちょっぴりのスリルとともにお届けしました。

コンサート当日の土曜日、会場となる明石市立天文科学館プラネタリウムは、午後4時40分まで通常のスケジュール投影が行われており、直前までリハーサルや準備をすることができません。

それはあらかじめわかっていたことでしたので、あえて当日ギリギリの時間に会場へ入る予定を組んで東京から明石へ向かいました。それほど遠くない道のりですが、所要時間は5時間ほどです。

天文科学館に到着して、すぐに控室で打ち合わせ。当日の進行や演出の詳細は、この時、初めて耳にしたのですが、それを本番までのわずかな時間に完全に把握しなければなりません。

解説員と細かい段取りを決め、あとは一般投影が終わるのを待って、限られた時間内にリハーサルを行います。リハ開始までまだ20分ほど余裕があったので、展示室と展望室を見学。

14階にある展望室からは明石市街はもちろん、明石海峡大橋や淡路島がパノラマのように広がり、いつまでも眺めていたい景色でした。

展示室には星と時に関する資料がわかりやすく展示されていたり、体験型の設備もあって、好奇心を掻き立ててくれます。

プラネタリウムの入口には、プラネタリウムに関する資料もあり、投影を観る前に歴史や仕組みを理解できるようになっています。

ざっと眺めていたら、リハーサルの時間となりました。まずは音をチェック。今日はソロ演奏ですので、ダイナミックで包み込まれるような音響でお届けしたいところですが、ドームの音響設備はそういった利用を想定してはいません。

また、大音量をよしとしないプラネタリウムの美学があるようでしたので、それを尊重し、音に関してはかなりの妥協をしました。

こうした環境で大編成オーケストラ作品のニュアンスを表現するのは極めて困難です。例えるなら、モノクロフィルムで赤い靴の魅力を表現するようなものでしょうか。

もうひとつ確認しておかなければならないのは、どこまで暗くなるかです。

最大に暗くした場合の中でリハーサルをしましたが、やはりいつもとは違うところに意識を奪われるため、演奏への集中を保つのに苦労しました。見えないことで脳が勝手に反応して、必死に見ようとしてしまうのです。

演奏上差し支えるとしても、ここはプラネタリウムですから、星空の効果を維持することは絶対条件です。せめてリハーサルをあと1時間延長できたなら確実にコツをつかむことができたはずですが、逆に怖さを抱えたまま終了となってしまいました。

やがて迎えた本番。ほぼ予定数終了のお客様が集まって下さいました。ドーム内にステージはなく、解説台の前にエレクトーンが置かれています。中央に投影機がありますので、演奏する姿がまったく見えない席もあります。

そうしたお客様にも演奏する姿を楽しんでもらえるようにと、冒頭と最後の部分では、ライブカメラを使った映像をドームに映し出しながら演奏。

また、至近距離を選んで座った皆さまは、私の手元をしっかり見ようと思っていたかもしれませんが、ドームが暗くなってからは、ほとんど姿は見えなかったことでしょう。

でも、満天の星空や、貴重な映像資料がドームに投影される中、イマジネーションを膨らませながら演奏に耳を澄ませて頂くことで、コンサートとは一味違った音楽の楽しみ方を発見してもらえたことと思います。

解説員のおはなしは、とても穏やかかつ丁寧でしたので、私もうっとりしながら聞き入っていました。私は出演者でありながら、お客様と同じ目線で星空とおはなしを楽しんでいたような気がします。

そして、今回もまた、エレクトーン演奏を初めて聞くというお客様がとても多くいらっしゃいました。その一方で、エレクトーンを学ぶ極めて優秀な子どもたちも、私の演奏に興味を持って集まってくれました。

初めてのお客様と、ある意味エキスパートである皆さんに、同様に満足してもらうにはどうしたらいいか。そんなプレッシャーや責任を感じながらの演奏でしたが、トライする価値は十分にあったと思っています。

星空を見上げて弾いている時、ソロ演奏だと考えていたのが実は間違いだと気付きました。美しい星空とのアンサンブルであり、解説とおはなしの伴奏でもあり。これぞ、スペースオペラです。