雲カラ光

金曜の午後、滅多に音楽を聞かない私が、CDから流れる音楽に心をまかせていました。そのCDは松本淳一さんの「VOICE」。この星のどこでもないところに来て、想像もできなかった景色を見ている気分になりました。

このCDは、つい先日、松本さんに会った時に、資料として受け取ったものです。どんな作品を書く人なのか、今、持ち合わせている印象と照らし合わせるために聞き始めたのですが、次第に引き込まれ、いつしかこれらの音楽で私の胸はいっぱいになりました。

並行して実施していた作業を中断し、とっておきのコーヒーを淹れて、カップの傍らにはこのCDと一緒にもらった二粒のチョコレートを。

ちょうど3曲目を聞いていると、曇り空が少しずつ晴れて、陽の光が差し込んで来ました。ジャケットを見ると、曲名は「雲カラ光」とありました。しばらく、遠い悔恨と向き合い、焦点もあわない遥かなところをぼんやりと眺めていました。

気がつくと、CDからは不思議な音色が。電子音なのに、鍵盤では到底不可能な表現が感じられます。その音を奏でているのはテルミンでした。

テルミンは宇宙人登場みたいな怪しげなシーンで効果音的に使われることが多い電子楽器ですが、そのイメージが大きく変わりました。演奏次第で、これほど温かく、これほど心が感じられるとは、素直に驚きでした。

秋のリサイタルで演奏することを目指して松本さんにお願いした委嘱作品は、いったいどんな音楽になるのでしょう。

松本さんいわく、今回渡したいくつかの資料の、どれにも当てはまらないものになりそうとのことですが、私は、作曲家・松本淳一がインスピレーションのままに書いた作品を、最初にひも解いて弾けるという歓びを心待ちにしています。

松本淳一さんのアルバム「VOICE」はiTunesでも購入できます。リビングに飾る花のように、優しい何かを届けてくれるでしょう。

それから、お気に入り動画をひとつご紹介します。こちらからどうぞ。北欧の自然風景をさりげなく撮影したもののようです。

何の仕掛けもありませんが、澄んだ空気の味まで伝わってきます。この動画の主も、私の音楽を聞いてくれたとか。お互いに遠く遠く離れ、見ず知らず同士なのに、まったく違うものを分かち合えるっていいなと思います。