指先の受難

鍵盤を弾く人ならばだれでも、プロ、アマチュアを問わず、指先に何らかのトラブルを抱えていることと思います。

私は高い位置から打鍵するのがクセなので、いつも爪がめちゃくちゃです。
鍵盤に爪が直接触れることのないよう、毎日ヤスリで手入れをし、手の腹の側から爪がまったく見えない状態を保っていますが、稽古やコンサートを終えた時には、必ずバリバリに割れてしまいます。

知らず知らずのうちに爪がはがれ、出血を伴うことも少なくありません。
先日の「ウィーンの調べと味覚」の際も、軽やかに優雅に演奏したつもりでしたが、やはりかなりのダメージがありました。
不思議なことに弾いている時はまったく気がつかないのですが、一番つらいのは入浴時です。これがまた、どえらく沁みて衝撃的な痛さ。うっかりどこかにぶつけようものなら、思わず涙がでてきます。

でも、どれだけメンテナンスしても、回復するより早く、次のステージがやってきます。

アスリートたちがそうであるように、私たちもまた、ズタズタのコンディションの中で期待に応え続けなければなりませんが、それこそが私たちにとって苦痛をはるかに上回る喜びなのです。

終演後にお客様と握手をする際、この哀れな手を「柔らかくて気持ちがいい」と、いつまでも離そうとしないお客様がたくさんいらっしゃいます。
ちょっと照れくさいと思いつつも、パーツのひとつでもほめていただけるのは嬉しいもの。

コンサートでお目にかかった時には、どうかこの手に触れてやって下さい。