Runway

六本木はもうすっかりクリスマスムード。けやき坂はイルミネーションを見上げる人々で溢れ、まるで年の瀬が近いような雰囲気ですが、まだ11月の半ばなんですね。

グランドハイアット東京のロビーには、ガーデン仕立てのクリスマスコーナーが設けられ、こちらもまた写真映えスポットとして大人気。

スタンダードルームで1泊十数万円と、とても手が出せない料金になった今でも、軽装の人たちが次々にチェックインする列が絶えない様子に時代を見る思いです。

さあ、私はフロントを横目に3階のボールルームへ直行です。前夜に三木公演を終えて大阪空港のホテルに泊まり、朝一番の便で帰京。9時の集合に間に合わせたかったのですが、飛行機は千葉上空で永遠に旋回を繰り返し、手荷物の返却に30分を要し、手配してあった車に待ち合わせ場所を誤られ、首都高の渋滞にハラハラし、結局着いたのは10時前だったのです。

幸い、頼もしい五十嵐優さんが搬入とセッティングのすべてをやってくれていたので、着くなりすぐにリハーサルに入れました。

この日は、独自のコスメブランドを展開する美のカリスマ・藤木貴子さん率いるSPICAREの、年に一度の大パーティー。全国から招待客が集まり、一足早いクリスマスを楽しみます。

なんと会場の仕込みは朝の6時からスタートしていました。テーブルセッティングはミリ単位で調整される乱れのないもの。各テーブルにはスポットライトが狂いなく当てられ、まるで浮かび上がっているように見えます。

ボールルームの中央にはランウェイ、そしてステージが組まれ、その傍らにエレクトーンがスタンバイ。いつものステージアも、今日はモードでクールなルックスです。

パーティーのテーマは「Silver Metallic Xmas」。ふだんの私は「シルバーメタボリック薬出ます」の方が似合うお付き合いなので、こんなオシャレな空間にはビビってしまいますが、私の役割はとても重要なので、しっかり務めなければいけません。

パーティーの前半、お料理の提供が始まる前に、コシノジュンコさんプロデュースによる30分のショーが組まれており、その音楽をエレクトーン一台で担当するというのが、私のミッション。

オープニングではジャパンゴッズタレントの初代優勝者・マリアセレンさんのあっと驚く歌唱が2曲。こちらを生演奏でお供しました。

続くステージは、コシノジュンコさんのファッションショー。6人のモデルが24ルックのコスチュームでランウェイを歩く間、音楽を付けます。

私はご存じの通り、クラシック音楽が専門ですので、エッジとビートの効いた音楽にはまったく自信がありません。サッカー選手に野球をやらせるとか、点心師に寿司を握らせるようなもので、どう考えて畑違いなのです。いや、これは尾野カオルさんでも呼んだ方がいいよ、どうしよう、とだいぶうろたえました。

しかも、打ち合わせなし。近未来的で強い感じにね。それだけ言われて任されたということは、相当信頼されているのか、何か勘違いをなさっているのか、いや、この際なので信頼されたと解釈して、神田将らしいものをやることにしました。というか、それしかやりようもありませんし。

モデルって、どんなテンポが歩きやすいのかな。そもそもコレクションの音楽ってどんなものなのかな。いろいろ調べました。そして、あれこれ勉強する中で、ここは基本としておさえておくこと、自分らしさを出せるのはここ、コシノジュンコさんのアイデンティティや今回のコレクションに含まれるメッセージを音楽に置換することなどを考え抜いて準備をしました。

とはいえ、当日に30分のリハーサルがあるだけですので、目論見が外れたら一巻の終わりです。また、コシノジュンコさんがリハーサルをご覧になって、「そうじゃないのよね」と一言発すれば、プラダを着た悪魔のワンシーンそのものの悪夢となります。

そして、どのタイミングでモデルが登場するのか、どこで振り向くのか、間隔はどうなのかなどなど、段取りなど一切はその場で決まるので、事前に作り込むことができません。

ということで、基本のビートとフィルインを決め、各音色ボタンに使える音色をセットして、あとはランウェイを見ながらすべて即興でやることにしました。

イントロダクションはスペクタクルな感じがいいわ。そんなの準備してませんとは言えないので、即座にイメージしてオケっぽい音を呼び出して、ガツンとやってみる。ここで恐る恐るやると、違うと言われるに決まってますので、とにかく堂々とやるのがコツです。

ティンパニの連打の中で、ホルンに吠えさせて、イントロダクションはいい感じに。モデルの姿が見えたら、ハウス系のビートを打ちながら、エレガントにハープのフレーズを入れたり、マルカートのストリングスで007みたいな刻みをしてみたり。もうあとはノリです。

リハーサルではモデルもすっぴんですし、こちらもまだ本気まではいかずで、生ぬるさは否めなかったのですが、なんとかなるという確信を持つことができました。

ここからが長い長い待ち時間。本番まで5時間ありますが、会場は別の準備で使っているので、エレクトーンには触れません。頭の中でリハーサルの流れを振り返り、更なる工夫を練っていきます。

モデルたちのメイクがひと通り仕上がったところで、私も変身タイム。まあ、モデルたちは元々美しいですから、メイクが一番必要なのはこの私なのですが。

今回も上田美江子先生のチームが揃う中、初めて上田先生ご本人にメイクをしていただきました。会話も楽しく、何から何まで本当にプロだなと感じながら、気がつけばキリッとした男前が完成しているじゃないですか。ヘアもバッチリです。自分じゃ絶対できません。

いよいよ待ちに待った本番。オープニング前にソロをとのことで、1曲弾かせていただきました。広い会場でシャープなライトを浴びながら弾くのは快感です。何と言ってもコシノジュンコさんのジャケットを着ながらですし。

そして、会場が暗転し、オープニングのキューが出たところで、前奏を弾き始め、マリアセレンさんがドラマチックに登場。会場を練り歩きながら、お客様と触れ合います。

互いが離れるに従い音の到達時間が遅れるので、聞こえる声よりも少し早めに弾いてタイミングを合わせました。気持ちよく歌っていただけたようで嬉しく思います。

マリアセレンさんの歌が終わり、すぐにファッションショー。とにかくキッカケを逃すわけにいかないので、キューをくれる人に意識を向け、絶妙なタイミングを押さえていきます。

そこはリハーサルとはまったく違う世界でした。モデルはただ歩くだけだと思っていましたが、ランウェイでは常にものすごいエネルギーを発していて、それが強烈なインスピレーションとなって音楽を引き出してくれるのです。なので、こちらはそれをただ受け止めて音楽で返答する、つまり言葉なく一緒にダンスするような感覚です。

ふだんのクラシックでは感じたことのない高揚感と光のシャワーに包まれながら、思いのままに弾くという自由の、なんと心地よいこと。20分ほどのショーでしたが、もう終わってしまうの?という感じ。

最後にはコシノジュンコさんと主催の藤木貴子さんが登場。得意のクラシック音楽も挿入しドラマチックに演出。フィナーレはふたたびビートに戻り、クールにカットアウト。いい経験でした。

こうした場ですと、演奏は脇という立ち位置に終始することも多いのですが、コシノジュンコさんと藤木貴子さんは、音楽を重要なファクターと考えていて、きちんと奏者のことをご紹介くださいました。

また新しい世界がひとつ。ここからまた何かに繋がるのが楽しみです。

写真:上田海斗